サイトをSSL化しました。セキュリティアップ!

純平、考え直せ



奥田英朗

裏の世界しか知らない一途な純平が痛ましいだけ。いつも一味違う奥田さんだが今回は外れた。

久々に奥田さんを読もうとして、これにした。軽くて明るそうだ。そういうものが読みたい気分だった。

今回の奥田さんは軽く読めたが、期待に反して ”時間を返して、奥田さん” と言いたかった。
感想はいつものように感謝して甘い点をつけたかったが、少し辛い。多少世相を反映させてはいるがメインストーリーが軽い。題名にもう少し迫ってほしかった。

兄貴に憧れ一途に尽くしてきた純平21歳、兄貴のようなヤクザになりたい。尽くして尽くしまくっているとき、組長からじきじきの命令が出る。「三日後に鉄砲玉になれ」
感激して、20万と、貰った特別休暇の三日間を豪勢に暮らす。何しろ田舎出で、兄貴について見聞きしたことしか知らない、おずおずしたところが可愛らしいが、それでも女の子と付き合い、勝手知った歌舞伎町で羽を伸ばす。兄貴に呼び出されない自由時間を満喫。そこでテキヤの兄弟分が出来、元学者の老人やコインランドリーにいるひ弱なゲイなどと知り合う。

一晩付き合ったOLになんとなく身の上話をすると、それを彼女が携帯サイトに投稿したものだから、大騒ぎ。

決行前夜は、OLとまた会って、怪しげな地下クラブで、初めてクスリを吸い、LSDでぶっ飛んでしまう。過去がミラーボールのように光って回りだし、人間離れをしたトリップ状態を経験する。このあたり全く軽い。

そして明ければ当日。盛り上がったサイトの「助けに行こう」も沈静化し、結果は新聞を読もうかとやはり他人事だ。

スッキリしない。侠客物では決してないし、ハードボイルドでもない人情新派に堕ちてもいない。
現代風俗はそれでいいとして、ふと会いに行った母親だって相変わらヒモと場末で飲み屋暮らし。
故郷のかつての族仲間は家庭を持ち優しいだけになっていた。

組に帰って留守番に聞くと、組長と兄貴の取引の道具にされているのだという。兄貴に限って…。
純平はどこまでも一途だ。
人生の途中で安定した家を出てグレてみたと言う、たかりやをしている老人と、純平に心底憧れて兄弟分になってくれたテキヤの同い年。これは面白い。
だが世相を反映させたらしい、むやみに騒ぐ携帯サイト、人それぞれの発言が面白いといえば面白いが。

その後の夜のクラブで、純平は何をした、最後の夜、もう「考え直せ」もあったものではない。
21歳の純平が、もう少し賢かったら、こういう風に沢山の人間と関わることもなかったかもしれない、一途なものは人をひきつける。
だが、撃つなら裏切り者の兄貴を撃て! 前後の話は奥田さんが面白くコミカルに書いてくれるだろう。だが純平はそこまでは考えられないので考え直せない。

久々の奥田さん、 残念!!でした。
おもしろいキャラクターの登場はさすがだと期待したがそれきりだった。

☆2だと思ったが。、老人の話が面白かったし、さすがに伊良部さんを生み出したキャラ作りの見事さに☆3にした。

一気に読めるし面白いことは面白いのに。


お気に入り度:★★★☆☆
掲載日: