「なにが望みだ」
汚れて死にかけているようなこの人には食べ物と薬がいる。
隣にミナという女の子がいた。学校には行かないで自由に暮らしていて、勉強はお母さんに教わっているという。
ミナと二人で彼を空き家に移して、話をする。こっそり夜様子を見に行ってみると、彼の背中に翼があった、三人で手をつないで踊っているとミナとマイケルの背中にも、月に照らされた翼が見えた。
ミナは学校に行ってないが子供らしい中にも柔らかい心と知恵でマイケルに様々な影響を与える。子供の心だけが見ることができる不可思議なものに満ちた世界を、マイケルにも気づかせる。
ミナが質問するとマイケルは言葉に詰まる。「あんた鳥、好き?」「わからない」「ハ!典型的」「ブラックバードの色は」「黒」「典型的」
彼女はありきたりの知識を典型的という。
マイケルの妹は命の灯が消えそうな心臓病の赤ちゃんで、彼は心配でならない。お父さんもお母さんも一喜一憂して病院に通っている。
お母さんは赤ちゃんの心臓手術の後、そっと抱き上げる翼のある男の人を見た。不思議な夢だった、と思う。
手術が成功して赤ちゃんが退院した。危険な小屋は取り壊され、そこで元気に遊ぶ赤ちゃんの庭ができるのだろう。
読後に思うこと。
失ってきた様々な不可思議を感じる心について。その中にある祈りの心について。
学校の教育について、
なかでも、学校に行っていないミナののびのびとした暮らしと彼女とお母さんが声を合わせて歌うウィリアム・ブレイクの詩について。
両親の心があかちゃんにばかり偏っていないかと、マイケルを気遣いいたわることについて。
教育の中の典型について。知識と経験と環境について。
奇怪な男が少しずつ元気になり、「名前はスケリク」と教えたことについて。
第一声が「何が望みだ」といったことについて。
作者は美しい感動的な物語の中にたくさんの意味を込めて、これを書いたことだろうと思う。
「うちのあかちゃんも翼を持ってたと思う?」
「ええ、ぜったい翼を持っていたと思うわ。よく見てごらんなさい。ときどきかあさんは、あの子はまだ天国を離れきっていなくて、この世にちゃんと降り立ってないんだと思う」
母さんは微笑したがその目は涙ぐんでいた。「だからこそ、この世にとどまるのに苦労しているのかもしれないわ」
お母さんはそういった。でもあの夜あかちゃんを抱きあげて慈愛に満ちた目でじっと見つめ、どこかに消えていったスケリクのことは夢だと思った。