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謎物語―あるいは物語の謎



北村薫

推理小説というジャンルの謎を解く。推理小説の中の謎を解説する、古今東西のミステリを語る深くて広いエッセイ。

裏表紙の紹介から

物語や謎を感じる力は、神が人間にだけ与えてくれた大切な宝物。名探偵も、しゃべるウサギも、実は同じものかもしれない、―― 博覧強記で知られる著者が、ミステリ、落語、手品など、読書とその周辺のことどもについて語り起こしたはじめてのエッセイ。宮部みゆき氏の応援メッセージ、謡口早苗氏のメゾチントも収録した待望の文庫化。

ミステリについて語り解説を紐解く、興味深く面白く、ミステリの世界について改めて考えさせられた。
共感、同意、新知識が頭の中をマッサージする、これが嬉しくて本を読むのかと思うような一冊だった。

引用は文字の色が爽やかな青色で、読みどころ、作品のポイントがうまくまとめられ、超短編は全文引いてあるところもある。

謡口早苗さんのメゾチント(版画)これも幻想的な図柄が青い色で押されて、一区切りを飾っている。表紙もそうだが初めて見てすっかり好きになった、美しい。(初めてのものに出会うととても嬉しい)

引用したいところばかりだが、最近関心があるので、第7回、芥川の《昔》から

いかなる現実の事件があろうとも、現代日本は、古今東西を通じて最も人の命の高い国であろう。そこに生きる書き手にとって、人を殺す、というのは難しいことである。

 ところで芥川龍之介は、自分が歴史物を多く書くことについて『澄江堂雑記』のなかで、こう語っている。

テーマを芸術的に最も力強く表現するためには、ある異常な事件が必要になるとする。その場合、その異常な事件なるものは、異常なだけそれだけ、今日この日本に起こったものとしては書きこなしにくい。もし、しいて書けば、多くの場合不自然の感を読者に起こさせて、その結果せっかくのテーマまでも犬死にをさせうことになってしまう。

わたしは芥川の作品の原点の一部に触れた気がする、続いて「現代世界文学全集」第一巻からルナールの「村の犯罪」を挙げている。さすがに面白くて、納得して楽しんだ。

これだけでもこの本を一読する価値がある。

上げればきりがないが、最も心に残った作品があったので孫引きだが書き写して、忘れないようにしたい。

中川正文氏の「口説の徒」 福武文庫「現代童話Ⅱ」で読んだ、まずお子さんの友君の詩。

五足の上靴

さんかん日に
おかあちゃんがきて
帰るとき
ぼくのげたばこをあけたとたん
「ひゃー、上くつ、いっぱいあるやん。すててしまい」
と、いうたやろ。

ぼくは、それいわれるのん ひやひやしてたんやで。
なんでか、いうたら、
二年からの、上くつ、げたばこに、ためててん。

ぼくの思いでが、いっぱいある上くつやし、もったいない。
奈良先生にも、いわれたんやけど
すてへんかった上くつやねん。

いちばんぼろぼろのは
三ヵ所ほど、でかいあながあいてるけど
およめにいった
千賀先生とも、遊んだくつや。
運動場も走ったし
雪の上もふんだし
勉強もしたし
ぼくのシンボルや。

今のくつも、もうあかんようになったけど、
運動会の日まで、はいてやったし
また
ためとくねん。
そやし、
「すててしまい」と、いわんといてや。

この詩が、三年生の教科書の採用された。ところが、友君はひどく浮かぬ顔をしている。聞いてみると《「アホらしくて、ものもいえんわ。おとないうたら、ゼンゼンわかっとらん」》教科書を見た中川氏は《唖然となった》こうなっていたという。

古い運動靴

おかあさん、
じゅぎょうさんかん日に
ぼくのげたばこをあけたとたんに、
「まあ、古い運動靴がとってあるのね。すててしまいなさい。」
と、いったでしょう。

ぼくは、
それをいわれるのを、ひやひやしてたんだよ、
なぜかというと、ぼくの思い出がいっぱいあるくつなんだもの。
二年のときのくつなんだよ。

三ヵ所ほど、大きなあながあいているけど、
よその学校へかわられた中野先生とも遊んだくつなんだ。
暑い運動場もかけまわったし、
雪の上もふんだし、野球のときもかつやくしたし、
ぼくのたからものなんだ。

今のくつも、もうだいぶんふるくなったけど、
きょねんの運動会で、二とうをとったくつだし
また、ためておくんだ。
だから、
「すててしまいなさい。」
なんて、
かんたんにいわれては、こまるんだよ

《よくもこれだけ見事に言葉を殺せるものだ》と感嘆するしかない。

端的に言えば――格調が違いすぎる。《およめにいった千賀先生》それがなんと《よその学校へかわられた》!

というエピソードなども交えながら、ミステリの核になるトリックを、前例のない形で作り出す難しさなども語っている。

すこし前に何冊か読んだ、コリン・デクスターの解説があったのもうれしかった 読んでいてわーいわーいと喜びたかった。

最後に140足らずの書名索引がある、漏らさず読むには時間が足りないあぁ


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