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過ぎ去りし世界



デニスルヘイン

読みっぱなしで図書館の期限がきた。感想を大急ぎで書く。これでジョー・コグリンとの付き合いも終わりかな。ギャングの世界に染まり切れないジョーの葛藤がついに形になる。命がけの生き方を読むのに力が入った。

「コグリンシリーズ」と呼ばれている、読みふけったデニス・ルヘインの三作品。
「運命の日」「夜に生きる」に続く三作目。「夜に生きる」でギャングの世界で成功した三男のジョー・コグリンが主人公である。
前作から10年が過ぎている。

第二次大戦下のタンパ。幕開けは、ジョー主催の兵士支援パーティからで、町の名士や主だったギャングが参加して雰囲気を盛り上げているが、記者を配した人物紹介としてここでもルヘインの語りの腕が発揮されている。

ジョーは二作目の最後で裏社会から身を引いているが、今では慈善家であり、公共事業の出資家でタンパでは大きな影響力を持っている。裏の社会でもまだ有力な絆は続いていて、ギャングが逆らうことのできない、少数の選ばれた「委員会」のメンバーでもある。
組織のボスの座は引退時に幼馴染の「ディオン」に譲っている。
9年前に妻を失ってはいるが、もうすぐ10歳になる息子がいて事業展開の腕を発揮し実業家としても成功し、表社会にも裏にも貢献している。

生活は安定し、穏やかに見えたが、そこに命を狙われているとの情報が入る。犯人の名も犯行の日も見当がつき、珍しくジョーの心が揺れる。

先手を打って情報源のテレサに会いに行くが、彼女もその理由は言わない、そこには彼女の命がかかっていた。ジョーはピース川で勢力を伸ばしてきたキング・ル―シャスに会いに行く。テレサはこの男と利益の取り分で譲れないために命が危ないのだという。ジョーが話を付けるために会うキング・ルーシャスというボスは、一声で人を殺す悪魔といわれている、ジョーは「悪魔の方が可愛げがある」と言いつつ単身ピース川のボートハウスに入る。キング・ルーシャスはここに住み川を上り下りしている。ジョーはここでも才能を見せ無事にテレサの取り分と情報を得る。緊張感も極まった読みどころだった。

ジョーの後半生に入るためか、彼の将来を暗示するかのような、過去の服装をした子供の幻を見るようになる。
亡くなった妻は前作でキューバの革命に参加していた、検死した医者に最後の様子を聞きに行く、まだ性別も分からない子供を妊娠していたと聞き、彼は平静を装い去っていくがこのような挿話が話を膨らませながらも、前を向いて戦い続け、生まれながらの才能や、人間性を失いたくないという生き方に陰が指す。
この物語は不幸な終わり方になるのではないかと不安をあおり、読んでいるとジョーのその後をまるでともに歩むような心境になる。

ジョーの下で働く若いリコの野望や、次第に年老いてくるディオンや、周りで台頭してくるギャングファミリー、長く安泰に見えたジョーの足元が揺らぎ始める。
ここにきてこの物語は終わるのかと読んでいても一種の寂寥感を覚える。

弱味を見せたが最後、組織を狙うものの力ずくの争いが始まる、ジョーはまたその渦中に巻き込まれる。容赦ない裏の顔と、穏やかな暮らしを望んできた表の顔を、もう一度ジョーという男の生き方に照らして振り返ると、善悪という枠を超えて身につまされる。

デニス・ルヘインは暴力を描きギャングの暮らしを深みまで穿ち物語る。しかし人間の短い命を見つめ、裏に生きる男たちであっても、ビールを酌み交わす繋がりや、家庭を持ち子供を育てている生き方の根源的なものは、等しく変わりがないことを描く。
形はどうであれそういった物語を作り上げて読ませる彼の世界に引き込まれ、コグリン家の歴史、三男のジョーの人生をここまで読むと、いつの間にかそれぞれの運命の中にある歴史と喪失の形が胸に迫る。


お気に入り度:★★★★☆
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