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皆川博子

表紙のグロテスクさがまたいい。読んでみるといつの間にかそんな事は忘れているけれど。たしかに人体解剖というのは医学の進歩には欠かせないといっても、考えれば恐怖だ。

「双頭のバビロン」が余りに読み応えがあって、今でも雰囲気に呑まれた感じがある。

皆川さんのミステリで、聞いたことのある作品が少し前に話題になっていたのを思い出した。
早速読み始めたが、こんどは解剖教室の話、グロテスクな描写は前のものでお手合わせ済みなので、余り気にしない。
ただ、読み始めると、教室の五人の生徒が、本の中や頭の中を走り回るので、登場人物一覧をジッと眺めて、ひとまず先生と生徒の名前を覚えた。

容姿端麗、眉目秀麗のエド(エドワード)が一番出番が多いが、彼と同室の天才細密画家ナイジェルも重要。
後は、おしゃべりなクラレンス、太目のベン、やせっぽっちのアル。

さて、時は18世紀のロンドン、舞台は外科医ダニエル先生の解剖教室。

わが国では「解体新書」の腑分けが始まるよりも7.80年先んじているのかな。やはり江戸幕府の下で、西洋医術は遅れている。

英国でも外科医の地位は低く、特に解剖医となると、薄気味悪い印象で住みやすくはない。解剖死体を手に入れるのもやすやすとは出来ない。裏から手を回し、墓あばきに金を払ってやっと手に入る貴重品だった。

弟子の5人は先生を慕って集まっていて、向学心に燃えている。
そこに妊娠6ヶ月の貴族令嬢の死体が運ばれてくる。視察団から隠した暖炉から取り出してみると、下に重なっていた覚えのない死体が出てくる。
そうこうしているうち開けてなかった隣の部屋の解剖台に、四肢を切断された少年の死体が乗っかっていた。

この三体の死体を巡って、事件が展開する。

死体になって解剖台の乗っていた少年は、町に出たときエドとナイジェルがふと知り合った詩人志望の少年だった。 彼は、独学で中世の文学を学び、当時の筆致(古語)で文章や詩が書けた、その上教科書にしていた貴重な古文書を持っていた。
この少年と弟子たちのつながりが物悲しい挿話になっている。

ダニエル先生は世事に疎いが、兄の内科医は上流階級に取り入り、富と名声を手に入れていた。屋敷の一部を解剖教室にし、経費の面倒を見ていた。

それが、どうも詐欺に会って高額な投資に失敗し破産寸前らしい。貴重な標本を抵当にして資金を借りているらしい。

弟子たちは、解剖室の将来と尊敬する先生のために、増えた死体の真相を探り始める。

そこに、盲目の名判事、ジョン・フィールディングが登場する。
貧民が増え世情が乱れている、彼は裏金では転ばない高潔な人物だった。盲目のハンデは微妙な声を聞き分ける聴覚と、手に触れることで感じる触覚を備えていることで補って余りある。そのうえ、明晰な頭脳をもち行動力もある、出来事の経緯を整理して分析する。厳格な中に柔らかいハートも持ちあわせている。
眼の代わりをする賢い姪もついている。

右往左往しながら、死体が増えた原因になった殺人事件が解決する。

法廷場面で、思いがけなく胸が熱くなるシーンもある。

エンタメ要素満載で堪能した。
弟子たちが歌うアルファベットの歌が楽しい、話の最後でやっと「Z]の部分が完成する。
皆川さんの作詞らしい。

題名は、解剖前に弟子たちが揃って言う言葉。


お気に入り度:★★★★☆
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