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蝉しぐれ



藤沢周平

読み終えて、話すと驚きの声。
初めてだなんて、、、
そういう声が全くそのとおりだと思えた。
映画もドラマも見て読んだつもりになっていた。

見ると聞くと読んでみるのとはこうも違う。染五郎が凛々しく木村佳乃は美しかった。

しかし原作の味は文字の中にある。
「蝉しぐれ」が降る海坂藩で 成長する若者たちの姿に胸が躍る。

文章はまるでやわらかい淡い光を放つ絹糸のように風景を織りなしている。雨のあと頂に向かって上る山霧、霞のような朝霧。
家の屋根を染めながら落ちていく夕日。青々となびく田をわたる風。
織りあがる布は、詩情豊かな風景を浮かび上がらせ、移り変わる光の色が、忘れていた風景の中を歩いていく心地がする。

勇気と忍辱のこころ、友情と信頼の豊かな土壌の上で、過酷な現実を乗り越える力を感じる。
養子に入った貧しい家を守りながら、幼馴染の友人、隣の娘お福との交流が暖かい。
藩内の跡目相続に名を借りた権力争い。お福の運命を見守りお思い続ける気持ち。
藩内の抗争に巻き込まれたお福と子供を助けて、闇路を舟で下る緊張感。
稽古場での対立。ご前試合。伝授された秘剣村雨の威力。

上質のエンターテインメント作品に出会えて感激した。


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