「心配いらないわよ。私たち二人がなんとかやり過ごさなきゃいけないことが何であろうとも、それはきっと一瞬のことよ。どんなにひどくったって、残りの人生のたった一日に過ぎないわ」
子どもが生まれて７歳になるまで、一年ごとに区切って、作者ケレットの日常や出来事を、暖かいというかヤッタネ！というかユーモアと機知溢れる文章で綴っている。
テーマは、息子が生まれて育っていく七年間の微笑ましい出来事が多い、両親が愛情溢れる言葉で息子の持ってくる問題をしなやかに答えながら育てている、子どもが外の世界に触れて疑問を持って帰ってくると、両親は童話のような言葉の中に隠された教えや智恵で、温かく包んで話して聞かせる。
作者は、問題のイスラエルの首都テルアビブに住んでいる。遠く近く戦闘の音が響く中での暮らしが、実感として感じられる。他国から見れば常に内乱の中にされされている暮らしだが、住民としては渦中にいる状況をユーモアを交えて語っている、そうであっても外から見るとなにか危険な臭いを感じてしまうが。
「戦時下のぼくら」にはそういった日常に触れている。
７年間にわたる家族の話では両親と兄と姉の暮らしにも触れ、両親は生き方を異にした子供２人を理解して受け入れている。家族はゆったりと仲がいい。
姉は正統派ユダヤ教徒になって生まれ変わった。生き方が違えばもう「亡き姉」と書く。
ユダヤ人の両親がワルシャワゲットーで迫害され逃げ続けた話も書く。
小説を書いて世界で読まれるようになったが、原文はヘブライ語で書かれていてそれから訳されているそうだ。
そういった家族や両親、息子を交えた家族の話が殆ど、失敗談や、おかしなエピソードや外国の変わった風習に戸惑ったことや、ちょっとした心温まる生活などユーモアも含んで、とても危険な国の人には思えない。
父親は癌になるが前向きで勇気を与える。「父の足あと」
妻のシーラが言った。
「心配いらないわよ。私たち二人がなんとかやり過ごさなきゃいけないことが何であろうとも、それはきっと一瞬のことよ。どんなにいひどくったって、残りの人生のたった一日に過ぎないわ」
そうして一日が積み重なって時が過ぎていく。
私は何度も元気がよすぎて、外科に緊急入院しては生き残ってきた。ベッドで思った、手術といっても長い人生のたった一時間か半日、そうすればまた生きていける。山にも登れる。低山からやり直そう。
それは、思いがけず堕ちた穴で希望を失わずにいられる呪文のような言葉で、この部分ではシーラの言葉ににうなずいた。
この夫妻は「ジェリーフイッシュ」という映画を作った。観た記憶がある、実にいい映画で、これがこの作者で登場人物だとは知らなかった、カンヌ国際映画祭で新人監督に与えられるカメラ・ドールを受賞している。