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1ドルの価値/賢者の贈り物 他21編



O・ヘンリー

O・ヘンリーの短編は鋭く、暖かく、面白い。それにこの光文社の新訳は粒ぞろいで、ヘンリー病になるかもしれない。

最近、短編集を読む機会が多い、以前は落ち着いて読むのは長編小説がいいと思っていて、短編集というものにあまり目が向かなかった。
何気なく買ってきたものが、国内外を問わず短編だったりすると、自分のうっかりを棚に上げて、また短編なのかと思った。
それが読みなれてきたのか、発刊されるのに短編集が多くなったのか。読後のピリッとした味が嬉しくなってきた。

そうなると作品の評判が気になる。作家の背景も知りたくなる。
そしてこの本に回り逢えた。海外小説フェアのおかげで、少し目が開いた気がする。短編集ははじめての作家の入門書のように思っていたが、全く別物で短くても読んでしまってからも、心の中で輝いたり感動を残すものだと知った。今更というか、やっとというか。

O・ヘンリーは、この短編集に収まっているどの作品を読んでも素晴らしい、彼は仕事に恵まれず家庭にも恵まれず健康的でもなかった。作品が認められてからも花の時期は短く一種の生活破綻者のように死んだ。
南部時代から小説家を目指して多数の短編小説を書き、やっと認められ自信を持ったが、3年間刑務所に入ることになる、そこでも非合法ではあったが味方を得て旺盛な創作活動をした、その後逃げて中米まで行き、逃亡中の強盗犯と知り合い「ある列車強盗の告白」というルポを書いた。

各地を転々としそれを題材にしたものもある。読んでいると、住んだ土地と、彼の仕事がよく分かってくる。題材には事欠かず料理法は素晴らしく気が効いて深みがある。人間性も豊かに、経験も深まり、持ち味もますます軽妙になっていったが、不思議に、読んでいるうちに、作者を思い悲しい気持ちにとらわれた。よい作品というのは読んでいて少し高い境地を見せてくれる。

やはり晩年暮らしたニューヨークのものが多く収録されている。
全部で表題作も入れると23編がおさまっている。どれも名手という言葉を実感した。

 多忙な株式仲買人のロマンス
忙しすぎて結婚していることを忘れて、空き時間に大慌てでポロポーズしたら、、。奥さんのリアクションが暖かい。ニューヨーク時代の秀作。

 犠牲打
最後の一言は、ハチの一刺し(古い?)

 赤い族長の身代金
子供を誘拐して身代金を取る計画で、裕福な家の息子を捕まえた。というより元気がよすぎるその息子は目を輝かして自ら誘拐された子供になった。ところが身代金を盗る手続きをしている間に、見張り役の相棒が、息子にこき使われて満身創痍、音を上げた。可笑しいが愉快。南部テキサス時代の作品。

 伯爵と婚礼の客
捻ってあるが心温まるオチ。

「甦った改心」
名人の釘師は最後の仕事をして足を洗った、新しい土地ではじめた商売が当たって、名士の娘の婿になった。
義父が、経営する銀行に最新式の金庫が来てとくとくと披露している最中に、遊んでいた孫娘が閉じ込められて。後は想像通りの展開で、これは語りの巧みさで後に残った。
刑務所時代の作とか。

 しみったれな恋人
美人のメイシーは百貨店の従業員だった。一目ぼれしたカーターは裕福な紳士だった、誘ってみると結婚できそうな気配に意を強くして、夢を語った。あなたと一緒に世界の素敵なところをみんな旅したい。
メイシーは友人に言った、あのしみったれは新婚旅行先はコニーアイランドですって、お話にならないわ。
ニューヨークの生活に馴染んできたころの作品。富豪の世界を遊園地と取り違えてしまった、皮肉にも住む世界の違いがこのあたりで分かってよかったかも。

 1ドルの価値
オルティスは1ドルの偽銀貨を使って捕まった。偽銀貨は柔らかく細工しやすいものだった。「私が作ったの」と女が名乗り出たが相手にしなかった、彼にはすでに様々な罪状がついていた。
「がらがら蛇」という名前で、検事の私に逆恨みの手紙が来た。よくあることさ。
私は婚約者と鹿狩りに行って「がらがら蛇」にライフルで狙われた。鹿狩り用の猟銃では射程距が短い。相手は距離を測って狙ってくる。ついに弾がなくなった。
ポケットに何気なく入れた偽銀貨があったのだが。

「最後の一葉」
これは知る人ぞ知る代表作。というか分かりやすく感動的なので教科書で読める。
病んだ娘が窓の外の蔦の落ち葉を数えている。最後の一葉に命の望みを繋いで、、、。緑と枯葉色の混じったその葉は冬の強い風にも落ちないで持ちこたえている。
ニューヨークの貧しい芸術家が、安いビルに住んで夢を追っていた時代があった。

「靴」
靴などはいた事がない人ばかりのところに、だまされて大量の靴を送ってしまった。さてどうする。
で、どうしたか、読んでのお楽しみ。愉快で気分爽快。

「賢者の贈り物」
これも有名。
貧しい夫婦の情愛が美しい。泣ける。

全部で23編、抜き書きでも長くなる。ちょっと別の判と比べてみると、訳も読みやすくよく選んで編んであるので嬉しかった、少しずつ読んでも旅のお供に充分。
これが本棚にあってよかった、図書館本だったら即注文したかも。


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