朝倉の悪に対して川瀬の正義は何処まで迫れるか。
これは「川瀬雅彦」の章にあたる。
CIAに、銃器を積んだロシア船「ナデージダ」について情報が入る。オーダーしたのは日本人。
「あの国に、なぜこのような武器がいるのだろう、しかしまだ我が国に不利な影響はないだろう」
荒れ狂う日本海の嵐の中で、日本の二隻の救命ボートに武器が積み替えられた。受け取った「武上」は胸に手を当て守護神に役目の成功を感謝した。武上は教団「龍陽教」の奨学金で教育を受け陸上自衛隊では、武器の訓練成績も優秀だった。
彼らは親の代からの「龍陽教」の信者だった。子供の頃から「龍陽教」の教育を受けた子供たちは成人して、自衛隊をはじめ各方面に散らばっている。
教団70年の歴史とともに信者の数も増え、二代目を継いだ教祖は信者にとってついに神と呼ばれる。
教祖は、この腐敗した国を立て直すことを使命だと思い始める、息子とともに、各界に手配してある信者の情報を集め、潤沢な資金で海外の武器を密輸入して武装し、実行に移すことにする。
報道写真家の「川瀬雅彦」は、命を削るような戦乱の取材地から帰還する。日本ではニュースキャスターとして活躍する恋人の「由紀」が待っていた。結婚の約束をして彼女は福井にある原発の取材に出発する。
貨物船「ナデージダ」はベトナムに向けて、次の航海に出た、ドラム缶には「元山」で下す炸薬が入っているが、それはCIAの偵察衛星の写真で鮮明にキャッチされていた。「北朝鮮の暴走を止めるにはあれを撃沈するしかない」
原子力潜水艦「ラ・ホーヤ」に指令が下る。潜水艦は日本海にでていく。
「元山」に寄港する「ナデージダ」は北朝鮮の領海の、僅かに外の地域に当たる国際海峡にいた。「ラ・ホーヤ」のソナーに位置反応があり、「ナデージタ」の真下にいることが分る。まさに今、魚雷発射の合図をするというとき、「ナデージタ」には異変が起こっていた、積荷の折の粗雑な扱いで炸薬がもれていた、そこに見回りの乗組員の安全靴の火花が引火して爆発、「ラ・ホーヤ」もろとも鉄の破片になった。
(緊迫感が盛り上がる読みどころ^^)
そのとき「龍陽教」では、この船の爆発に乗じて、計画を実行する指令を出す。爆発が北朝鮮の襲撃だと思わせるのは好都合だった。これは福井原発を襲うと見せかけて、自衛隊を誘い出す作戦だった。一方では警視庁の駐車場やアメリカ大使館にも爆弾が仕掛けられ、建物の一部が爆破される。そうして「龍陽教」の思惑通りに事が進んでいった。
アメリカ軍の空軍へリが打ち落とされ、駆けつけた自衛隊も壊滅的な攻撃を受ける。ライトを浴びながら報道現場からレポートを始めた由紀が、カメラの前で打たれて即死する。
さまざまな情報が入り乱れる中、由紀の死を知る、茫然自失のまま川瀬は能登に向かって出発する。そこには「龍陽教」の攻撃隊が待機していた。
駐留しているアメリカ軍、緊急出動する自衛隊、マスコミ、「龍陽教」の兵士たち、政府閣僚。日本の危機は空想の舞台としては、随分現実味を帯びて伝わってくる。
一気に読んでしまったが、クーデターという一種の英雄的に見える行為が、反面多くの犠牲を強いるものであることも当然考えられる。
ひと昔前の作品だが、さまざまな内情が盛り込まれ現実感がある。
川瀬雅彦と由紀の悲運など、ストーリーには柔らかい部分もあるし、これが現実なら今の世界のあり方にはいささか不安が募る部分があるが、フィクションは面白い。
川瀬は時間をかけて立ち直り、次作の「クラッシュ」で活躍するらしい。