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パライソ・トラベル



ホルヘ・フランコ

憧れのニューヨークへ、2人は密入国を企てた。

読み終わるまで時間がかかった。面白くないのではないし、分かりにくくもない。それでもなかなか進まなかったのは、珍しい構成だったので馴染むのに時間がかかった。一度目は、時間の流れに慌てた。コロンビアからニューヨークに密入国する話なのだが、行き着くまでの旅の話からニューヨークで道に迷って拾われるまで。

話の流れはそうなのだが、唐突にシーンが切り替わる。パッチワークのようにつぎはぎされた話は、頭を切り替えて流れを掴まないとついていけなかった。何か意図があってこういう書き方をしたのだろうか。そこはよく分からない。

そこで大まかなストーリが分かったところで読み直してみた。まずはラブストーリーだろう。アドベンチャーストーリーかもしれないし見失った自分と祖国を発見する青年の成長物語の部分もある。最後が気持ちよくおさまって、読後は最初の混乱を忘れて、読んでよかったと思えた。

訳者が丁寧にストーリーを整理して書いてくれている。主人公2人の祖国、コロンビアの政情がいまだに収まっていないところも良く分かった。ラテンアメリカ、南米というところは、先日のリオ・オリンピックの警戒態勢から見てもマダマダ不安定なところで、過去にも長く外国の支配下に置かれていた、言葉も、大陸名にアメリカとつくのはアメリカの南にある大陸という意味しか持たないようだ。若者が高度成長の象徴ようなきらびやかなニューヨークに憧れるのも、2人の話の発端として納得できる。

大雑把な話は、コロンビアのメデジンに住んでいるマーロンとレイナ、マーロンは中流家庭とはいえ、私立大学に入れるほど裕福ではない、同じ町に帰って来たレイナを見かけ選んでくれた嬉しさで舞い上がりつきあうようになる。レイナはニューヨークに行きたがった。

迷いはあったがマーロンも一緒にいきたいが費用がない。そのときに降って湧いたようにドル札の詰まった財布を持って叔母の婚約者が来る。レイナが盗み、旅費が出来た、が詐欺まがいの「パライソ・トラベル」と名乗る会社から女が来て、パスポートなしでも引き受けるという。未成年で、政情不安な国では容易にパスポートは取れないだろう、2人は金を払って国を出た。詰め込まれた飛行機、降りてバス、小船に乗り換え、くりぬいた丸太に潜ってニューヨークまでたどり着く話はさすがに痛々しく、乗り継ぎのたびに世話人と称した男たちがいて持ち金が減っていく。それでも何とかたどり着けたのは幸いと言うほかない。

マーロンが部屋から出てタバコを吸っていて警官に肩をたたかれパニックになる。闇雲に逃げて迷路のような道に入りレイナとはぐれてしまう。それから1年レイナを探してさ迷いボロと垢にまみれ放心状態でレストランの夫婦に助けられる。

レストランでトイレ掃除のアルバイトに雇われ、三人部屋を探してもらってそこから通いはじめる。同室の男がなかなか面白い。彼の人に言えない得意技で鞄に滑り込ませた新しい服を、マーロンにくれたりする。ここでもみんな貧しい。
一年と三ヶ月ほど過ぎた頃一緒にニューヨークに来た女がレイナの居場所を探し当ててくれた。彼女はマイアミにいた。アーロンはすぐにバスに乗る。

一応パッピーエンドなのだが、時間はマーロンに、前と違った目で自分と国を見せ始め、レイナはコロンビアから消えた母を見つけて一緒に住むようになっていた。

マーロンは新しい生活の入り口に立っている。マーロン側からの生活が物語の主になっているので、レイナにも会えて彼の回想が終わる。善意を引き寄せるような生き方は読んでいてもいいものだ。パライソ・トラベル、パラダイスという社名も胡散臭いが、なにか惹かれるネーミング。

「何で、死んでしまわなかったのよ」「死んだ方がましじゃないの?マーロン」
ぼくの返事を待ちながら、あるいは僕の死を期待しながら、レイナは涙ぐんだ目で僕を見つめている。
今日は死にたくないよ、レイナ。ときとして<時>の流れは寛容さを示してくれ、今公明正大に時間は過ぎていく。僕はもうきみを探し終えたし、そのことで負い目はない。
君が祖国を取り替えたいと思ったとき、祖国とはどこであっても愛情の存在する場所であることに気づかなかったんだよ。今僕には、僕の足が何処に向かっていくかわかっている。

読みにくいのはラテンアメリカという文学に馴染んでいないからかもしれない、訳は優れていても、馴染みのない構文、なれない国の言葉となると、訳文もいささか異質に感じられるのかも知れないとふと感じた。
ストーリー上何かと都合よく行くな、という箇所など小説だからねと思いながら、人の善意が都合よくいきすぎると読むより、主人公の持ち味から生まれるものだと理由付けしたが。

ガルシア=マルケスが将来を託したいといったという作者のホルヘ・フランコは新時代の作家として注目されているそうだ。読み返していると付箋を貼りたくなる表現や言葉が多くて、独特の感じ方が深い光を放つ。優れた作家だと感じた。


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