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真珠郎 (角川文庫)



横溝正史

これが戦前の作品だったなんて調べて驚いた、古風だとは思ったが、初めで読んだときは衝撃的で、しばらく体のどこかに憑いているような気がした。驚きも新鮮だったのに。再読してみるとあまり恐ろしくもなかった。

これを初めて読んだのは、中学一年生のときだった。横溝正史初読みになったこの本は、主人公が美少年だっただけに恐ろしく不気味だった。興味はあったがまだこういう世界には慣れていなかったらしい。ちょっと文学というものから外れていると生意気にも思っていた。
5、6年前くらい前だっだか角川文庫の「横溝正史生誕百十周年フェア」が開催されていたが、この作品は入っていなかった、横溝正史の作品では後世に残る名作というわけではなかったのだろうか。妖気が漂う耽美的な文章、時代を感じさせる舞台装置や血なまぐさい殺人事件、横溝正史の世界はここから始まったと思っていたので見つからなくて少しがっかりした。
その時は探して買ってきてまで読み返すほどの気分ではなかった。たまたま病気をして休養中だったので切った張ったという殺人事件から離れたい気分だったらしい。

そのとき展示されていた25冊の殆どは読んでいたが、初めて読んだ怪奇小説の「真珠郎」という題名の衝撃はまだ収まっていなかった。

先日立ち寄った古書店でたまたまこの本を見つけた、古い本独特のにおいと黄色く変色した表紙が懐かしかった。
それまで海外の名作ミステリというのはたまに読んでいたが、また病気をして治療中に借りたワクワクのミステリを読むのが面白くなってきた。
病気も治ったころにはもうホラーも殺人事件も好みの範疇で、少しのことには驚かなくなって、読書の楽しみが広がったのが嬉しいほどになった。「真珠郎」に出会った今が読み時、と思って懐かしさのあまり読んでみた。
思い入れがあって前置きが長いです。

浅間山の麓の湖際に建つ、妓楼を移築した眺めのよい部屋を借りた二人の大学生が、殺人事件に巻き込まれる。
棲んでいる家族は二人だけだと聞いていたのだが、渡り廊下の先にある蔵に誰かいるらしい。夜、湖畔の柳の下に立っている世にも稀な美少年を目撃する。しかし、そういうものはいないと家人が言う。
そして第一の殺人が起きる、湖の水が流れ入る洞窟で「真珠郎」と名づけられた少年が返り血を浴びて、船の上で奇怪な笑い声を響かせていた。(ここを夜に読んでいたのでまさに肝をつぶし震えたw)

舞台は東京に移り、また殺人事件が起きる。真珠郎が目撃されていたが、その後姿はかき消したように跡形もなく、その後事件が起きるたびに目撃される。

蔵の持ち主は「真珠郎」を生まれたときから蔵の中で育て残酷な教育をした、望みどおり怪奇な殺人者に成長し、鎖をきって逃走する。その後に起きる事件が、複雑な彼の生い立ちとともに周りの人々の思惑が絡んでいることがわかる、話は陰惨な場面が続く。

このときはまだ金田一探偵は書かれていないが、探偵役が出てきて、絡んだ糸を簡単にほぐしてしまう。
不気味な雰囲気は、当時子供だっただけに心に焼きついたものの、恐怖譚や妖しい物の怪話など嫌いではなかったのかたまに読むようになった。改めて読み返すと、表現や言葉遣い名前などに時代を感じるものの、ミステリとしても面白く、読み終わって思い出す場面も多かった。
ただ、並みの殺人鬼ではない彼の本心が哀れで、うら悲しい部分もあることに今回初めて気づいた。

横溝正史のものでは「本陣殺人事件」が一番だと思っていて、密室の仕掛けの面白さに驚いた。映画化された有名作品もいいが短編中篇にも魅力がある。

調べてみたら「真珠郎」は処女作ではなかった、でも極初期の作品で1934年「新青年」に連載されたもの。1941年には初めて金田一さん登場の「本陣殺人事件」が書かれていた。

映画も見たが、池から足が突き出ている衝撃のシーン「犬神家」より、美しく恐ろしかった「女王蜂」の方を覚えている。ほかの作品のようにテレビで再放送をしたのは見たことがない。見逃しただけなのだろうか。ドラマの「真珠郎」はピーターだったようで、彼が若かった頃なら凄惨なイメージがあっているような気がする。


お気に入り度:★★★★☆
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