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介護退職



楡周平

親戚のこともあって、介護について少し勉強したので、題名を見て著者が楡さんなので読んでみた。

正直がっかり。現実の介護問題とは程遠い。得るところなどなにもなかった。

収入が年間手取り1000万円で役員目前かというエリートサラリーマン、田舎で独り暮らしの母親が骨折、介護に行く東北までの交通費もバカにならないと自宅に引き取って介護に当たった、しばらくして妻が入院する。

仕事はアメリカ企業との契約が成功寸前で、取締役へのステップを前にしている。
3LDKのマンションの住宅ローンと車のローンがあり、高校受験前の息子がいて授業料の高い塾に通っているそれも馬鹿にならないと気付く。

母を引き取ったがほかに介護を頼めるところがない。施設には空きがない。高額の有料老人ホームには手が出ない。
仕事にしわ寄せが来て閑職に左遷された。
そこで早期退職の優遇制度を利用して退職する。預金額は5000万。これを食いつぶしていくのかと暗澹たる気持ちになる主人公。

読んでいて、この主人公は何を悩むか、中流家庭なのになぜに車はローン、将来の見通しが甘かったにせよ、すぐに負担になる住宅ローンの支払い。支払いの見直しはしないのか、経済的なこともあってヘルパーは最低限に利用することにするところなど日常の生活に不信感を持つ。

頼みの弟のうちでも店の収入は下り坂だが、息子は成績がよく超難関大学を目指している、聞いてみると教育費がかさみ生活はカツカツ状態で当てにできない。

お仕事小説の側面で、エリートの仕事を語る、サラーマン小説の部分がここに入ってくる、このテーマの中で、と意味を図りかねる。

最後にハントされた仕事では年収3000万円になりアメリカ勤務で、妹に給料を支払って手伝ってもらうことにして赴任する。めでたしめでたしだが、普通こうはいかないでしょう。
何が悩みだろう。同じ生活が続かなくなることが意外だったのだろうか。甘い。

楡さんのお気楽な小説になんだかがっかりした。もちろん人生には挫折もある、でもそれが言いたかったのだろうか得意分野だし。
最後まで読むと、これは苦難を乗り越えたサクセスストーリーだったのか?
現実離れしているのでは。

一般的に介護者をかかえた家庭は殆ど二人家族で、自分よりほかに看る人がいないケースが多いそうだ。子供と離れた老老介護も多い。
子供が介護するとなると、当然勤める時間もないし職場はない。介護サービスを受けても費用が払えない。介護保険が適用されてもそれだけではまかなえないのが現状で、施設には空きがない。
そういった切羽詰った現状で悩み、助けを求めている人が多い。非課税世帯の優遇はあるにしても、施設の自己負担はなくならない。収入より支出が上回り、心身ともに消耗していく。ばら撒き行政という言葉の裏にこうして存在する非生産世帯はどうなるのか策はいつでも後回しになっている、増える高齢者を社会でどう受け入れるか、働ける人材が介護に回らないといけない現状は全く改善されず、老人保健法は高齢者を苦しめている。介護保険料は上がり続けている。
高齢者が安心して余生を過ごせるためには、係員は公費の適応状態をしっかり掴み、公平で正確に実態を調べ。コンピュータに頼らず足で確かめ実情にあった処置を行い、悪法なら改めなくてはいけない、そういったことから始めてはどうか。

介護を書くなら、しっかり現実を把握認識してほしかった。
個人差が人を傷つけ差別する法律を、考え直さなくてはならないことが必至であっても。

楡さんの企業小説好きだったのに。


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