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十三番目の人格(ペルソナ)―ISOLA



貴志祐介

積み本から選んでみた、従来の貴志さんの不気味に構築された恐怖譚だろうと思ったがちょっと期待外れだった。

一時、二重人格や多重人格の本や映画をよく見かけた。この本はその頃買ったのか、題名のせいか作者の貴志裕介さんの名前をみたからなのか、積んである理由は覚えていない。平成10年発行で12版になっている。人気があって重版になったのかもしれないので、読んでみた。

加茂由香里は人の強い感情がキャッチできるエンパスだった。特殊能力があるための悩みがあったが、能力を使って心に障害を抱えることになった人々を助けられないだろうか。
被災者を助けるボランティアを志して神戸に来た。

両親のない少女が、阪神大震災で怪我をして西宮の病院に入院していた。
少女・千尋の学校のカウンセラーと協力して相談相手になった。そこで千尋の中に顕著な12の人格がいることに気が付く。
暫くして異質な13番目の人格が見つかった。12までの人格には名前をつけたが、13番目の人格「ISOLA」は強い憎悪を秘めて、他の人格を圧倒していた。名前は「雨月物語」の、復讐する女の怨霊から「磯良」と名乗った。

幼い時の事故で大きなトラウマを持つ千尋を、苛めてきた人たちが、次々に心臓発作で死んでいく。

全ての人格を統合して千尋を救いたいと思う由香里は、「磯良」について調べ始める。
そして「ISOLA」は「R]が「L]になっていたことに気づいた。

千尋に面会に来た医師から、彼女が「ISOLATION TANK」と名付けた装置を使って、幽体離脱の実験をしていたことを知る。指導していた助教授の真部も関係した実験であった。
彼女は真部に近づいていく。

千尋に憑依した「ISOLA]が凶暴な姿を見せはじめる。

まさに手に汗握る展開だったが、真実性(科学的な根拠)が少し弱い。
それらしい装置や話を絡めただけ、「雨月物語」から名づけられたという怨霊の「磯良」が不気味だが、それも単なる怪談話の引用で、二人が由香里を迷路に誘い込んだところで、本体から「磯良」を分離する治療法を試すために、幽体離脱の実験装置を動かすがそれも軽い。

後半の研究者二人の関係も、千尋の悲惨な体験を利用するような部分があったが、話の幕切れは、なにもかもなだれ込んで終わった。ホラー要素を詰め込んではいるが、少々不消化のままになった。

第3回日本ホラー小説大賞長編賞佳作。


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