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図書館の死体



ジェフ・アボット

愉快なミステリーを読んだ。まず真相究明に走り回る若者がいい。
この主人公、都会の仕事を諦めアルツハイマーの母親のために帰郷して市の図書館の館長になった。

名はジョーダン・ポティート。気が優しく明るいそのうえなかなかのハンサムでもてもである。
カンサス州ミラボーの町は片田舎でちょっと人間関係も複雑といえば複雑、お互いに知りすぎた弊害もある。
が何処にでもある変化のないところだった。

そこで殺人事件が起こって大騒ぎ、場所は図書館の中、
殺されたのは悪書追放に熱心なキリスト信者だった。文学書でも猥褻本と決め付け乗り込んでくる熱意と気迫に辟易していたところ、ついに言い争いが昂じて本で殴られてしまう。その後彼女が殺されていた。
道で拾ったバットを書架の隅に保管していたのも不運。ということで犯人にされそうになる。
その上、彼女の持ち物の中から見つかった紙切れ(聖書からの引用文のついた罪深い人リスト)に自分と母親の名前が書いてあったから大変。

真犯人は誰だ。彼は前向きに非常に楽観的明るい捜査を始める。何しろ元気、快活、ユーモアもあるめげない人柄。
もう、降ってわいた災難だよ、彼は考える。

普通ミラボーの女達が死ぬのは、何らかの病気にかかったり、天寿をまっとうした身体が永遠の休息を求めたり、ビール瓶にひそむ小さな死を積み重ね過ぎたり、車を運転していて注意散漫だったりする場合だ。
もしかすると、長年連れ添った夫が冷たい土の下の人となって、ひとり残された孤独に耐えきれなかったり、母さんのように脳の働きが衰え、記憶という生命のなかでも最も神秘的かつ神聖なものが消滅するばかりか、呼吸や鼓動を促すものが一切なくなってしまう場合だってあるだろう。
けれども、頭を殴られて死んだりしない。

ということだ。

通っていた教会の牧師の妻にも会ってみよう、しかし 二人が親友同士だったとは思えない。同じ教会の信者、同じ神の信奉者である以上、同盟者であったかもしれないが、友人とはいえなかったはずだ。
他人を裁く力を持つことを誇る人間は、あまり人とは仲良くしない。
心から愛情をあらわすことなく、相手の人間的弱さがあらわれるを待っているものだ。

彼を犯人だと思うのはこの機にちょっと手柄を立てたい警察所長くらいだが、わからない事が多い中で、皆がそれぞれ違う人を犯人だと思うようになる。(この際気にいらないアイツの名前を、というのまであって笑)

独り独りの思惑に振り回されるような、田舎の気の良い人たちばかりだが。

それでも何かありそうな雰囲気が巧みで、綿密な構成ながら、次第に糸がほぐれて、感動的な結末になる。
随所に見られる気の利いた表現やせりふは面白くときどきはクッと笑い出しながらもジンと来る、

素直に育ったジョーダン・ポティートという主人公がいい、ミラボーという町も昔懐かしい感じがする。
ちょっと時間が有るし、といって面倒なことをやる気も出ないしという時にはうってつけ、すぐ読める息抜きの一冊。


お気に入り度:★★★★☆
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