彼は、端整、かつ寂しい顔をした男で、年の頃は四十歳前後。ここで陰のある男の典型が出る。
「ナイトフライ」というホモバーを経営する新宿二丁目の住人だ。ミロ好みで、ホモだけれど。こういうのが危ない男で。
友部が言いにくそうに尋ねた。
「同性愛に偏見がある?」
いいえ、と私は首を横に振り、「ただ女として残念なだけ」と言った。すると、友部は声を出して笑った。
ハハハッ、とここらは読んでいて苦しい。
渡辺という女性が調査依頼に来る、彼女は「アダルトビデオの人権を守る会」の代表をしていると言い、一本のビデオを見せ、それに出ている一色リナという女優に証言して欲しいのだという。
彼女が出ているビデオは、本人の承諾もない露骨な演出で、輪姦し暴力で犯しているようなハードなものだった。
「リナの表情はおびえているではないか、これは考える会では無視できない、人権問題です」と渡辺が言った。
しかしミロはどうも気が進まなかった。
渡辺が見せた「ウルトラレイプ・これであたしも自己否定」というビデオは非常に後味が悪い代物だった。
それなりの題名にひねりがないかも桐野さん。
だが世話になっている弁護士の紹介でもあるし、ついに義理堅く、格安で引き受けてしまった。
しかしリナの行方は知れず、アダルトビデオを製作した会社、監督も得体が知れず、モデル風の男優たちもヤクザめいて手がかりはつかみにくかった。
ミロの部屋に脅迫電話がかかりドアの外に嫌がらせにネコの死体が置いてあった。
隣のトモさんにちょっとした手助けをしたので、その恩返しに調査を手伝うといってくれた。
やはりこのあたり、ミロはいくら威勢がよくても、体力では負けるのだ。
年末でクリスマスソングが流れる頃、契約期間は二週間で時間が足りなかったこともある。
トモさんとミロの共通の趣味だった人気歌手が殺される。
なぜかその葬儀の映像でミロの脳裏にひっかかることがある。
周辺の調査から次第に明らかになる一色リナの過去は、辛く悲しいものだった。
終盤に向けての展開もアルアルになってくる。
アダルトビデオを作る側、見る側の世界が、異形の闇を覗くような展開で、これで桐野さんは女流ハードボイルドと呼ばれているのかと、平凡な主婦は、大雑把な理解が出来たのですが。時は流れて時代は進む。今になって読むと、ちょっと時間がたったビールのような味が気になる。今でも桐野ファンだけれど、二作目は幕間狂言風だったな。