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蟻の菜園 ―アントガーデン―



柚月裕子

これは題名に惹かれてというより意味が分からなくて買ってしまった。蟻がアリマキを育てる話かもしれない、寓話かななどとちょっと推理した結果、面白ければ好きな作家が一人増える。と思った、軽いミステリだった。

このミス大賞シリーズ。特に選んで読むつもりはないけれど、いつものように手元に来てから裏表紙や解説で知ることが多く、そうなのかそのうち、とちょっと積んで山を作る。こういう迂闊者なので、本の山がますます高くなっていくのです。

残念ながら、テーマが現実の事件に似ていることもあってそんなに新鮮でもなかったし、話の流れも薄味だったが、悲しい姉妹の境遇から犯罪を犯すことに同情できる部分があった。だとしたらこういうテーマを選び膨らませる作者は才能があるのか、プロはソコを認めたのだろうか。

山林に放置された車の中で練炭中毒で死んだ男が見つかった、自殺かと思われたが車のキーが消えていることから、殺人事件として捜査が行われることになった。

容疑者に浮かんだのは円藤冬香、婚活サイトに登録名があり複数の男と付き合っていた。男の口座から何回にも分けて冬香の口座に入金があった。これは曰くがありそうだ。
しかし介護施設に勤める彼女には、同僚の証言で完璧なアリバイがあり評判も良かった。

彼女の過去を探っていくと、父親が幼い二人の娘を心身ともに虐待していた。学校にも行かせず戸籍もない二人は父親の車を家にして寒さに震えながら育った。
ついに姉が父親をカッターナイフで切りつけて逃げた。

冷たい粉雪の舞う真冬の東尋坊、姉の冬香は断崖の上に片方の靴が残っていたところから死んだと思われていたが、捜査が進み、戸籍課の線から学校の同級生だった名前を使って生きていたことがわかってくる。

一方、姉の帰りを待っていた妹も養護施設に保護されて育つ。

このあたりから事件の流れや姉妹の関わりが大まかに推測される。

独身のフリーライタ-である由美の捜査が特に冴えているわけでもないが、仕事を持つバツイチの彼女の暮らしや女性上司との絡みなど、彼女が事件を解明するのだろうと分かってくる。

事件を追う由美側の話はクセのある新聞記者の男がどうかかわってくるのかと思って期待したが、最初登場したほどのインパクト感は続かず、個性的にすべりだしたものの、彼もさして印象に残らないのが残念このあたり少し粘ってほしかった。また情報を集めて、気安さで漏らしてくれる刑事ももう少し癖があった方がよかった、彼も影が薄い。誰かが解決しなくてはいけないというので出したキャラクターは女性作家らしい生活感があって好感が持てるが、おいしそうな材料を生かしきれてないし、造形も多少類型的。

題名は面白いが、蟻の習性になぞらえて作品をひねったならもう少し面白くなっていたように思う。
表紙の色合いやデザインはとても綺麗で、誘われて読む気になっておかしくないが、軽いドラマ性だけで終始しているありきたり感が残念だ。

父親の虐待場面は醜悪さの描写も程よい感じで作者に好感が持てる、こういったところはこれから書く作品は面白くなって行くようで、まだこなれてない初期のものだとしたら、後の作品も読んでみたら印象が換わるかもしれない。
もう少し、と欲張った感想だが、全体的には好みの作品なのでおっかけてみてもいいかもしれない。

下書きのまま投稿しないで残っていました。
今思うと興味深い題名です。


お気に入り度:★★★☆☆
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