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女王陛下のユリシーズ号



アリステア・マクリーン

最後の戦艦ユリシーズ号と、乗組員の熱い男たちの戦い。

ユリシーズは乗組員、総勢725名と共に錨地を離れ北極海に乗り出した。

だが今回は何度も航海を成功させた無傷の伝説の船が、何とドイツの戦艦をおびき出す囮だった。艦長はそれを伝えるが、相次ぐ航海に疲れ果てた乗組員は、休む間もない朝の全員配置の呼集ラッパに叛乱を起こしかねないほど苛立っていた。

戦術家ティンドル司令官。ユリシーズの魂のようなヴァレリー艦長。ブルックス軍医と副軍医のニコルス。乗組員の名前や、配置図や航路が分かったころには、ソ連向け船団と護衛艦総数32隻はソ連のムルマンスクに向かっていた。

北極海の異常気象に襲われ、ER77という輸送船団は苦難の連続であった。
ユリシーズは4個のスクリューで39ノットを越すスピードと、360度回転する最新型レーダーアンテナを装備、爆雷、魚雷の必殺戦闘火薬を積み、特殊迷彩で濃い霧の中から救世主のように現れ、長い甲板に積んだ砲台が火を噴くと、護衛船はそれだけで常に伝説を作ってきた。

戦いは、敵はドイツ軍だけでなく、雪も嵐も身を切る凶器になる、5分で凍りつく気温と艦の頭上をで砕ける波頭の先の泡が氷片になって降ってくる。甲板は波を被るたびに凍って厚みを増し滑る。激戦と極寒の気温との戦いは酸鼻を極わめ、乗組員が撃たれ、または凍って死んでいく。

商船団、ER77の32隻はドイツのUボートの攻撃で次第に数を減らし、応戦した補助空母も戦闘不能になり帰路についた、駆逐艦、巡洋艦も魚雷を受けて沈没、13隻になりついに生き残ったのは7隻だった。油送船を中にして、商船、左右にユリシーズとサイラスを配置、背水の陣を敷く。

あと少しでソ連の援軍が来る、しかし最新のレーダーを搭載したドイツ爆撃機に対して、ユリシーズは誤爆した自己の魚雷で艦尾は水に沈み、マストが折れる。もう砲弾もなく、砲手も被爆した。
沈没船から救助した乗組員で 船室を満タンにしたサイラスを見ながら、ユリシーズは高く戦旗を上げて敵艦めがけて高速で突っ込んでいく。

これは「熱い男たちの物語」 戦艦の魂ヴァレリー艦長の死で、甦る乗組員たちの死を賭けた戦いが、最後まで読ませる。それぞれのエピソードにも泣ける。そして登場人物たちの勇敢だったり悲惨だったりする最後の姿を読むと、さすがに長い年月、読み継がれてきたことに感動する。

本を置いて我に返ると、やはり歴史の流れは、ユリシーズも例外ではないと感じる。既にミサイルの時代、進歩したレーダー、コンピュータによる人工衛星などの高性能の探知力は、あの頃のように目視で砲弾を発射する時代ではない。

第二次世界大戦、最後の戦艦ユリシーズが、折れたマストに戦闘旗を掲げ、生き残った十数名の乗組員を載せて疾駆する命がけの戦いに胸が躍るが、我に返るとそれは、そうしなければならなかった戦争のドラマの追想という思いも少し混じる。

などというけれどやはりこれは素晴らしい、マイベスト。


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