キャロル・オコンネルという作者は、構成も文章も素晴らしい。前作も評判が良かったそうなのだが、初めて読んでも、さすがにその評判は間違いではないと感じる。
ストーリーは複雑に絡んでいるものの流れに淀みが無く読みやすかった。
話の始まりは、子供の頃、兄弟で森に入り兄だけが帰ってきた。そのあと父に勧められて町を出た。
兄オーレンが２０年ぶりに帰宅するところから始まる。
帰宅したとき、死んだと思われている弟の骨が、玄関ポーチにひとつ置かれていた。
兄のオーレンは弟の死と犯人を明らかにしようと調べ始めるのだが。
携帯電話も圏外になるような所には、今でもあまり変化は無かった。
外から来た人は影のように暫く住みまたどこかに流れていく。
そんな狭い地域では、昔も今も変らない、年輪だけを重ねた人たちが居た。
丸い塔に住む弁護士の家族、妻はアル中で、娘は昔、舞踏会でオーレンに恥をかかされたことを怨んでいる。
小説家になり損ねたゴシップ屋、喧嘩相手だった保安官助手、など変わった人物も多い。
それに、オーレンは美少年だった、その頃遊び相手だった美しいホテルの女主人は今では椅子からはみ出すほどの肥満と、歳相応の醜い姿になっていた。
暴力を振るう夫を、殴り殺した女は、図書館の主になって、今では怪物と呼ばれている。
骨になって次々に帰ってくる弟は、行方不明になった１４歳の頃、すでに天才的な人物写真家だった。
人々の隠れた生活をその表情から感じ取って活写していた。
その写真の一部は今でも郵便局などに飾られている。
弟の死の原因はその写真にあるのではないか。骨を埋めた穴が見つかったが、その折に持っていたカメラが無かった。
それはアル中の弁護士の妻が納屋に埋めていたのがわかる。
しかしそこに残っているはずのフィルムは抜き取られて空だった。
この物語は弟の死の謎、町の人たちの秘密、父親の愛、母の死後ふいに現れた女。
その女が家政婦になり、兄弟を愛情深く育ててくれたが彼女は聡明で、考え深く、愛情に溢れていたということ。
そういう人たちが織り成す物語は、ゆっくり進む時間とともに徐々に結末に近づいていく。
でも、これがミステリなら、穏やかな田舎の風景の中で２０年後は変に穏やかだ。
大人たちは１４歳の弟にゆすられるようなへまをし、弟は巧妙に狙いを定めていたらしいが。
オーレンの美少年ぶりは既婚の女すべてと寝たといわれているのに、成人して帰ってきてからは何事も起きない、過去に触れられることが無いのはなぜか。彼はもう青春の名残は卒業したのだろうか、人を虜にするような絵に描いたような美青年についてこう思うのは、下司の勘ぐりだろうか。近づくと復讐のオーラが痛かったのかも。
簡単に底が割れる動機を持っている人たち。
ミステリは動機だけではないにしろ、こうやすやすと結論が出ては、面白くないと思いながらもまた読みたくなる。好きになった。
文章力、描写も面白いがただこの作品については、ストーリーが未完成のまま結論を迎かえたように感じた。
ミステリはさておき、文学的な見方から雰囲気を味わいたいと思うなら楽しい。
オコンネルなら、キャシー・マロリーシリーズがある。読んでみよう。