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植物はなぜ薬を作るのか



斉藤和季

「植物はすごい」という本で、花の仕組みなどを知り恐れ入った。だが今回薬のお世話になっている身としては「凄い、美しい」だけでなく新しい目が開いた。いや植物は偉い、研究者の方々も忘れていませんが。

何度も繰り返すようですが、今なら幼稚園年齢から、小学三年まで6年間母の故郷で暮らしたのです。周りが大人ばかりだったので、野山が友達で、ずいぶん自然に親しんでいました。
植物への関心はそういったところから生まれています。

46億年といわれる地球の歴史で植物は5億年を生き、ヒト属は200万年前、ホモ・サピエンスが40万年から25万年前の誕生だとすれば、藻類から始まった植物の歴史の長さには驚きます。尊敬です。

私は今更ながら、花々を美しいと眺める以外に、その生き方が独特であったことに感動しました。
「植物は動かないことを選択した生物なのです」
いわれてみればその通り当然目にしていることなのです。
それが自衛のため、子孫を残し繁殖するため巧みな戦術を使って生き延びてきているのです。土に根付き動かないでいるということを知ると何か改めて驚異的なことだと思われます。
生物の共通の属性として
*自らの生存と成長のための物質代謝、エネルギー代謝ができること
*自己を複製した次世代に受けつくこと
と挙げられています。

自衛のため子孫を残すために植物がとる、薬物を作り出すという生き方が人間の歴史にとっては「贈り物、めぐみ」になって今日に至っています。

バイオテクノロジーの急速な進歩はこの2.30年のことだそうです。ハイテク機器と化学知識の進歩によって植物からますます多くの恩恵を受けることができるようになりました。

古代には医術や薬草の知識は神秘的なものに感じられていました。薬学や医療に精通すれば、ある意味、呪術師や魔術師に似た感覚で受けとめられるような事もあったようです。

いま様々な物質の薬効が解明され、あちこちから声高に、植物由来という言葉も絶え間なく聞こえてきます。

違った道を歩んできた西洋医学と東洋医学が歩み寄りつつあります。
化学物質を合成して作られる化学薬品と、植物の毒性を利用した医療との違い、西洋医学は病んだ細胞や組織を狙って正常に戻すところから進んできました。一方東洋医学は患者の体全体を対象にしたシステムで、それは伝統的に受け継いできた知識を重視することでした。今ではそれぞれに長所短所を全段階で見極めるシステムが進み次第に見直されているようです。

植物はなぜ薬を作るか。植物が生きのびるための巧妙な仕組みなのですが、それが自然や環境の変化に連れ、時を経てますます多くの薬を提供することになりました。また利用する人間側、化学の世界では遺伝子研究が進み、そのゲノム構成が少しずつ明らかになり、DNAを組み替え、利用価値の高いものが人工的に作られ市場に出回るようになってきています。

たとえとして、今まで自然界でみられなかった青いバラやパープル・トマトの例まで上がっています。

新しい世界が開けること、抗がん剤の研究が進むこと、ニコチンやアルカロイド系の麻薬の功罪など、化学式を用いて組織図を著し、効力のわけ(なぜ効くのか)また習慣性について、一冊の新書にはマダマダ収まり切れないほど植物の持つ力について学ぶことができました。
解明されていない多くの可能性について何年か後には新しい本が出るかもしれないと、楽しみにしています。

子供の頃に見た花を探して歩いた経験が、珍しいクララやシャボンの木、塩っ辛い実のなるヌルデなどのことを思い出し、煎じて飲まされたゲンノショウコやセンブリの苦さまで思い出し「君たちは美しいうえに偉いのだ」と見かけたら声をかけようと思っています。

分子式は化学式というし亀の甲の名称はベンゼン環というようだ、光合成って化学式で書くと難しいのね、なんて思い出したのか初めて知ったのか、この本はおもしろかった。


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