白石一文
「永遠のとなり」という題名は二人の男の生き方ばかりでなく、理想と現実、自由と束縛、健康体であった過去と、現在の病身、故郷と異郷、もろもろに反するものを自己の中に抱えて生きる人間の象徴かとも思える。
青野精一郎は大学入学と同時に上京して、東京の大手損保会社に入った、花形部署にいたが、合併とともに片隅に追いやられ、部下の自殺の責任も感じてうつ病になる。退職後に離婚して故郷の福岡に帰る。
津田敦は大学卒業後は東京にとどまって起業したが、肺がんに罹り事務所をたたみ、二度目の離婚後福岡に帰郷する。
初めての手術が成功し、抗癌治療も効果があったが再発、二度目の手術後に福岡で再婚したが、今は別の女のところで暮らしている。
ふたりは中高と同窓で同じ美術部に入り、同じように東京の大学に入った旧友だった。
青野が帰省すると、先に帰っていた津田との付き合いが復活する。
津田はがんを抱え、二人の女の間を行き来しながら、独り暮らしの老人たちと親しく付き合ったりしている。
青野と津田の途中下車したような人生が、福岡の言葉でつづられている。荒れた都会生活と距離をとって、自分を見つめなおしていく過程が、ゆったりとした日々になって流れていくが、それぞれに生活の中では抱えた問題もあり、時には酒を酌み交わし、津田の妻を交えての話し合いや、同棲している女との付き合いに関わることもする。
青野はその中で少しずつ自分を見つけ出し再出発を考え始める。津田もがん治療に希望の兆しを見つける。
一度挫折した男たちが、親友と痛みを分け合って、将来に向かって踏み出し始める話だった。
経済的に追い詰められてもいない二人はどことなく余裕も感じられる。
欝で衰えたという男性機能回復に協力するという津田の愛人の行為は唐突で、好感が持てなかった。
完治の見込みはないだろうと思われる津田も今を受け入れ、青野も職につこうとする。
真の安寧、幸せを求める日々だったろう、だが余り深い感動もないうちに話が終わった。
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