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生きながら火に焼かれて

生きながら火に焼かれて 読書

生きながら火に焼かれて

スアド

この作者は今も隠れて生きている。名前も偽名では有るが職業を持ち三人の子供にも恵まれ、5人家族の幸せな家庭を築いている。この本から<名誉の殺人>を知った。

彼女は、ヨルダン川を遡り、政治や法律も届かない奥地の村で生まれた。
女に生まれただけで、家畜以下の労働を強いられ、父親の暴力は激しく、仕事以外は塀の外に出ることができない。外の文化も知らず、教育もなかった。日々働くことだけの暮らしだった。
村は男社会で、男には自由があった。家庭の中でも男だけが人間だった。
女の子は、成長して結婚の機会があれば、家の名誉のため、見得のためにできるだけ派手に支度をして、宴を開く。
そして男の子を生まないといけない。女ばかり産むと虐待されときには殺されることもある。
必要の無い子供が生まれるとソッと殺してしまう。こともある。

そして、女の子は、男を見てはいけない、手足を見せるような服を着てはいけない、結婚までは処女でいなくてはいけない。もしその掟を犯したなら、家族の名誉のために殺され、排除されてしまう。
嫁に行かない妹は弟が首を絞めて殺したようだ。

著者のスアドは、1970年後半、17歳で向かいの青年に恋をする、妊娠してしまうと、恋人は逃げ、母に知られてしまう。
彼女の処置について家族会議が開かれていた。どういう方法で誰が殺す役を引き受けるか。
身に危険を感じながらおびえていた数日後、井戸端で洗濯中に、義兄からガソリンか、灯油のような液体を頭から掛けられて火をつけられる。
燃えながら走り気を失なってしまう。目が覚めると病院にいた。一命を取り留めたが、治療も受けず乱暴に体に水をかけられベッドに寝かされていた。
そして意識ももうろうとしたまま7ヶ月で男の子を生む。

そこに<人間の土地>と言う福祉団体で働いている、ジャックリーヌがきた。医師を説得し、両親に国外で死なせることを約束し、子供も探しだす。
子供とともにスイス行きの飛行機に乗せる。初めての文化に触れ、適応していくために指導を受ける。子供は養子にして預け、仕事にも就く。
文字は少しだが読めるようになり、20回の皮膚移植を受け、家庭を持つことができた。

過去のストレスから開放されず、何度もうつ状態にもなる。

だが今でも世界で「名誉の殺人」と言う名の下に、逃れて名を変え、隠れて暮らしていても見つかり殺されている。

彼女はこの本を書いて多くの人に現実を理解して欲しいと訴えている。ずいぶん古い時代のことにも感じられるが。

私は以前同じ出版社の「イヴと7人の娘たち」(このテーマとは関係なくとても興味深い内容だった)と言うノンフィクションを読んだ。その時この強烈な題名を見た。
題名が恐ろしくて読めなかったが、最近 女性の隔離収容所が舞台のミステリを読んだ。その後、イギリスの「マグダレンの祈り」という純潔を失うことは家の恥であるというテーマの映画を思い出した。「家の恥」のもとになった娘を修道院に終生隔離する話だった。(逃げ出した娘から事実が明るみに出て閉鎖されたようだが)

今も行われている中東を中心にした<名誉の殺人>と言う現実を知った。
今は法的にも認められてはいない。でもとふと思った。日本のあだ討ち、上意討ち、果し合い、御前試合。武士の名誉は命がけだった。
外国でも決闘が有り、(今は決闘法ができたとか)それでも人は名誉を守るために命をかける。命を奪う。
名誉が命より大事だと思う人々の犯す罪は、深い深い人の根源に連なっていて、ひとつの思想が認識されるのには100年かかると言う、形は異なっていても因襲の中に囲われ人生を終わる無残さは、目を覆うばかりに過酷で悲惨である。

これから「予告された殺人の記録」(G・ガルシア・マルケス)の本を読もうとして、この本は、解説などから、あるいは名誉の殺人の影があるのかもしれない、(全く見当違いかもしれないが)と思いつつ、ふとした思い付きで関係のありそうな本を読むのも面白いかなと考えた。


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