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眠る狼



グレン・エリック・ハミルトン

久々の海外ミステリ。というかハードボイルドなのかなエンタメ要素があふれている。明晰な頭脳を持った理想的な主人公が、襲ってくる危機を乗り越えながら謎を解く。

デビュー作でミステリ三冠を制したというけれど。ハードボイルドで始まり少しずつソフトなストーリーに流れていく。こういう所が固いばかりの謎解きや銃の打ち合いとは違った雰囲気を持っている、読まれる期待の新人ということで、ストーリー運びも面白くて旨い。

父は顔も見ないうちに家を出、母親も幼いバン・ショウを置いて出て行った。幼い頃は里子に出されたというような生い立ちだったが、幸い祖父に引き取られる。祖父(ドノバン=ドノ)は裏の稼業が実は泥棒でこれが個性的で面白い。バンは祖父から家業の厳しい訓練を受ける。頭脳明晰、運動神経も抜群、分析力判断力も人並み優れた才能を持ち合わせている上に、スリルを求める年頃で、祖父の期待通り次々に危ない仕事もこなしながら成長する。

18歳の時、頑固な祖父と言い争い荷物をまとめて陸軍に入ってしまった。
ここでも水が合いレンジャー部隊に配属されアフガンなど中東戦線で活躍、今では軍曹になっている。

ところが捨ててきたはずの祖父から珍しく手紙が来る。様子がおかしい、らしくない弱気がほの見え、負傷して療養中でもあり10日間の休暇をとって帰省してみると、祖父が撃たれて瀕死の状態で倒れていた。

祖父は法の裏をくぐった成功者だった。だが最後に危ない橋を渡り損ねたのだろうか。顔なじみだった昔の祖父の仲間にあってみると、仕事からは手を引いていたらしいという。すでにバーの経営も若いものに任せていた。後継者のことも遺言の用意もできていたらしい。

が、ダイアモンド強奪事件が起きていた。総額500万ドル。仲間は祖父は関係していないという、仲間にも何の連絡もなかった。
だが家には盗聴器、隠し部屋にあったはずの現金も消えている。会っていなかった10年、祖父に何があったのだろう。バンはこの事件に巻き込まれていく。

登場人物が少なく、名前も憶えやすい。だからとても読みやすい。
メインストーリーに祖父と孫の過去の話が入る。9歳、10歳、14歳、そして祖父と決別した18歳の夜。祖父の無骨な教育方針が、子供の頃には憧れであり成長するにしたがってそれが重荷になり反発もする、二人の下手な交わりを挿入することで情感も漂い読みやすくなっている。

やはり祖父には何かある。
バン・ショウが限りある休暇を使い、深入りしていくに連れて派手なアクションシーンもあり、携帯電話を使ったハイテク技術も、舞台になったシアトルの地理を生かした海や島の情景も緊張感があって面白かった。

まさに
固ゆでから半熟に至る人情がらみの演出も、これがデビュー作なのかと思いながら、★5を付けた。


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