何が裏返っているのかな。男がうらがえって??どうなる?
いつものように、まず解説を読むと、これはアダムスベルグ警視が主人公のシリーズもので、読者は前作からこの作品が出るまで首を長くして待っていたとか。面白いのだきっと。
そうなのか。CWA賞を三回、その第二弾、何もかも初めてお目にかかるのだけれど。
やはり初見ではまだ友達とはいえない見ず知らずの警視より、気になるのは表題の裏返っている男だ。これは現実か比喩か、それとも両方か。
書名で選び、受賞歴で選び、仕方がないと、借りてしまっただけでなく喜んで最優先で読んだ。
まず、フランスの出来事。勿論殺人事件が起きるのだが。
次々に牧場の羊が襲われたことから、イタリアからアルプスを超えてきた、野生の狼の仕業ではないだろうかと人々は様々に推理する。
ところが傷跡から並みの大きさの狼ではないらしい。
そこで、狼男の話が出てくるが、そういえば体に毛は無いが変な男がいる。人付き合いを嫌って山にすんでいる白くて毛の無いマサールだ。
そう決め付けた牧場主のシュザンヌが殺された。折も折、姿を消したマサールが怪しい。
彼の皮膚には裏がえすと狼の毛が生えているに違いない。
狼男の話はこうして信憑性を帯びてくる。
テレビでこのニュースを見たアダムスベルグ警部は、ぼんやりと映っている木陰の後姿はかっての恋人カミーユではないだろうか。テレビににじり寄って確かめるがはっきりしない。
やはりカミーユはそこにいた。カナダ人でグリズリー研究家、今は狼について調べている恋人と一緒に。
彼女は作曲家だが修理工。工具をバッグに詰めて出かけていく。死んだ友達のシュザンヌに頼まれていたトイレの配管を直したりする。最後のボルトを閉めるまでそこを動かない、いいじゃないこの人、と私も一目ぼれでちょっとウフフとなる。
羊は次々に殺され、マサールも依然見つからない。
マサールの小屋から見つかった地図に羊が襲われた地点にしるしがあった。これが証拠だ、やはり彼だということになり家畜運搬車を改造して後を追う。先回りして羊殺しを未然に防ぐことだ。
運転はカミーユ、同乗は殺されたシュザンヌの養子と老羊飼い。
しかし敵もさるものなかなか尻尾が掴めず、ついに警部の登場となる。特異な感覚と推理で活躍する警部が到着して事件が解決に向かう。
羊が殺されたり殺人もあったり、残虐なシーンも多いが、作風としては落ち着いた描写で読みやすい。会話は機智に富んで面白い。
良質な作品だった。
警部の登場まで、そしてカミーユたちの車が走り出すまでは、あまり動きがない。
だが三人の追跡行が始まると実に興味深く面白い、これが作家の本領か。
まだ馴染みがないだけに、話に没頭して一気に読むというところまで行かなかったが。
裏返しの男には曰くがあり、巧い具合に納得できる。
警部が命を狙われていたり、恋しいカミーユが思い切れなかったり、スパイスもちょっと効いていて、これならファンもいるだろうと思った。
黒人の赤ちゃんを見つけて抱き上げ息子にすると宣言するところ、女性作家ならではの情感があふれ、赤子の様子もとてもかわいい。
題名の勝ちかな。またフランス人の警部に知り合いができた。