邂逅の森



熊谷達也

珍しいマタギの暮らしを書いた感動作。

ずいぶん前に話題になったので買ったのだが、積んであったのをやっと読んだ。

秋田の、田畑もないような山麓の小作人で、マタギを家業にする貧しい家に生まれた富治は、父と兄からマタギになり獣を狩ることを教ええられて成長する。
マタギの作法とともに、自然を敬い、畏れ、共存する意味を学んでいく。

年頃になり、村の祭りで地主の娘と知り合いお互いに一目惚れだった。だがそれが親に知れて村を追われる。

そのころ戦争景気で沸いていた銅山の工夫になり、腕も認められる。工夫にも年季があり三年三ヶ月十日勤めれば、どこで働いてもいいということになる。年季も明けて、渡り工夫になった富治は、親方の義理で人手の足りない鉱山に回されることになった。

そこでは年季を勤め終えているというので兄貴分になり、小太郎という工夫を弟子にする。
小太郎は、身丈も力も並でなくその上乱暴者だった。しかし休みに小遣い稼ぎに熊狩りに出ていた小太郎を助けたことから、小太郎は富治を兄貴と慕うようになった。

そのとき富治は、小太郎の手助けをしたつもりだったが、自分の中にあるマタギの血は、狭い坑道を這うのではなく、白銀の山の光が溢れた太陽の下で生きること、自然に帰ることを望んでいたことに気がつく。

工夫をやめた小太郎を訪ねていき、彼の村に住まわせてもらうことになる。あまり歓迎されないながら、余所者であっても、マタギのいない村では、マタギが獣を狩り現金収入を得ることは必要だと思われ、村で住ことが認められる。

しかし住まわせるには条件があった。小太郎には姉がいた。姉は生活苦のために酌婦に売られ、身を売って暮らしてきた
相手構わず誘い歩く身持ちの悪い姉のイクをもらって、落ち着かない村の若者の気落ちを静めてほしいと言う。

彼は言われたとおりに生きる決心する。そして村の若者を集め「組」を作り頭領(スカリ)としてクマ狩りを始める。

だが彼と一緒になった、小太郎の姉は、身売りした女郎と言われさげすまれる中で、強く懸命に富治に尽くし、家を支え娘を育て、次第に村の中でも認められるようになっていった。

彼はマタギになってから、いつか自然の声を肌で感じることができていた。娘を嫁にやり一息ついたとき、何か不穏なものを感じた。もうマタギのための道具を置く時期が来たのではないかと思うようになる。
だがまだ早い、生きる目標を持たなければいけないと言うイクの言葉で、仲間を傷つけ逃げている、山の主のようなツキノワグマを打つために一人で山に入る。

冬の厳しい中でクマを追うマタギの暮らしや、峻険な雪山をクマを遠巻きにしてしとめる様子など、自然の険しさ恐ろしさ美しさを書き尽くしたいい本だった。

「邂逅」の題名のように、人生の前半は、不幸な出会いばかり続く富治の人生。
そして後半は余所者として住みついた彼と村の若者との命がけの狩を通したふれあい。
そしていつか深まっていた夫婦愛。妻と初恋の女にかける想い。
など、感動的な場面も多くて、一気に読んでしまった。


お気に入り度:★★★★☆
掲載日: