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闇をつかむ男



トマス・H.クック

「記憶シリーズ」の前作にあたり作風や表現法などが「記憶」風に変化してきている過渡期のように感じる。主人公が故郷に帰り、過去の出来事の中から事件を解明すると言うのは「蜘蛛の巣のなかへ」にも似ている。

ミステリはパズルのような謎解きもいいが、この作品のように犯人の動機や背景環境、過去などが伏線になってストーリーに厚みを加えているものも面白い。

今は都会で暮らす犯罪ノンフィクション作家キンリーのもとに、親友が死んだという連絡がくる。
育ててくれたおばあさんが死んだばかりなのに。

キンリーは山の中の人里離れた土地で、おばあさんと孤独な子供時代を過ごしていた。
偶然IQ研究者に見つけられて、天才少年と言われて高校に入れられる。
同級生には敬遠され続けたが、レイとだけは親友になった。
成長して保安官になった彼とは祖母の葬式で会ったばかりだった。

レイは谷間に下りたところで心臓の発作で倒れていたと言う、なぜ病気の身でそんな無理をしたのか。

彼はつきあっていた女性の父親の事件を調べなおしていた。
50年前にその事件で犯人にされ、逮捕されて地方検事のすばやい判決で即刻死刑になった男、その事件に不審を持ったらしい。

キンリーはレイのためと親友を失った痛みのために調べ始めた。
レイに導かれるようにすでにあちこちに彼の調査の跡が残されていた。

レイが死んだ谷間には子供の頃二人で行ったことがあった。道の先には蔓の垂れ下がった壁があった。
そこでキンリーは持病の喘息の発作が出る。
発作から自分を守るため、当時のさまざまな記憶をなくしていたことに気が付く。

家の前でレイはきっぱりいいきった。
「お前は戻るべきだ」
「でも、ぼくは・・・・ 」
「だめだ 」

この問題について議論はしない。これから先へは行かないというレイの断固とした意思表示だった。
そのあとレイはキンリーの腕をとり踵を返した。緑の巨大な壁は背後に消えていき、二度と見ることはなかった。
それ以後二人はその古い家を探そうとしなかったことに気づいた。

その言葉の後、家は、ゆらゆらと水底に沈んでいくようにまず二人の会話から消え、つぎに少年ならではの計画から消え、最後にひそかに胸に残していた希望のなかからも消えていった。
“二度と” キンリーはそっとつぶやいた。

レイが亡くなった時から時間を遡りキンリーは調べ始める。そして意外な事実が彼自身の中にあることに気がつく。
レイは彼を守っていたのだろうか。

この疑問が結末にとどくまで。とても面白い


お気に入り度:★★★★☆
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