サイトをSSL化しました。セキュリティアップ!

隠蔽捜査



今野敏

20年の2月に文庫になってから、ずいぶんたくさんの人に読まれている。気分転換に古い本を出して来たので今はもっと増えているでしょう。また今更だけど、このシリーズ読みたいし面白かったし。葛藤は続くのです。

東大法学部卒のエリート竜崎伸也という主人公は、変人だといわれている。彼は公務員の本筋通り、国のために奉仕し、国を守るために働いている。本質さえ違えなければ、面倒な縦横の付き合いなどは無用だと思っている。
長官官房で総務課長、身分は警視正なので多岐に亘る職務に忙殺されている。

過去に埼玉で、暴力団員が射殺されたが、よくある暴力団員同志の揉め事だということだった。だが殺されたのは過去に起きた女子高校生の、誘拐、監禁、凌辱、殺人事件の犯人グループのひとりだった。
社会的に反響の大きな事件だったので、被害者の過去は伏せて、内外に箝口令をしいていた。

その事件が頭から消えかかっていた頃、埼玉市内でまた、射殺事件が起きた。
過去の事件との関係がクローズアップしてくる。

ところがまた三人目になる、過去の少年仲間が撲殺された。
被疑者は現職の警察官だという。これが知れると日本の警察機構の汚点になる。
解決方法を求めつつ、固く隠蔽されて捜査が進む。

一方、竜崎の家庭でも問題が起きていた。息子がヘロインの粉をタバコの先につけて吸っていた。粉も見つかった。さすがの竜崎も解決に迷う。
少年法が適用される年齢である、しかし身内の犯罪の責任を取らなければならない。
一直線に目指して耐えて来た今までの努力と、手に入れた地位をなくすだろう、そうなれば家族の将来が不安になる。

軽微な少年犯罪だから、簡単に揉み消せる、と同期で小学校からの敵のような友人が言う。
その友人は伊丹という。小学生の頃いじめられたことを竜崎は忘れられず、そのことをバネにしてきた。磊落そうに見えマスコミ受けのいい伊丹は、有名私大卒ながら今では、キャリアの、刑事部長になっている。
伊丹は事件についてなんとか内部で収めたいと言う。

同じように、息子の件ももみ消せと言うが・・・。

龍崎の本質、見識は組織の中では孤立することもあり、ときには周りの人たちを圧倒する。
反感や非難もまるで眼中に無い。公務員の心得、守るべき国民に対しての責任のみが彼の生き方である、それらはじわじわと周りに染み込んで行く。
管理社会の中で縛られているサラリーマンにとってこういう正論に沿った生き方は憧れである。憧れるだけである。建前もなく本音だけで通るのはまぁこの人くらいだろう。
現実では生きていけないなぁと思う。理解されるような事件も人間も見つからないのが実情だ。だからこの話は面白い。

そして、独特のキャリアとノンキャリアの厚い壁の前では、竜崎のいう、受験勉強以外の楽しみを犠牲にしてでも手に入れるべき道順は、まず東大に受かること。それもありなのか。
しかし、彼はそれだけではない何かを感じることのできる柔らかい部分が、少しずつみえてくる。そこがいい。面白い。


お気に入り度:★★★★★
掲載日: