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隻眼の少女



麻耶雄嵩

ミステリー大賞と日本推理作家協会賞受賞作。選考委員やプロの作家は高評価したのかと思ったが、最後まで乗り切れず、ほとんどが一気読みすることにしているミステリにしては時間がかかった。

辺境の小さな町で、土俗的というか、奇妙な伝承にしたがって暮らしている一族と人々がいる。ということで当然現代からタイムスリップしたような村で、ミステリサークルで隔離されたような環境が舞台。

第一の殺人現場で出会うのは、水干姿をした隻眼の美少女探偵と自殺志願の青年が登場でそうそうから興味ををそそられ、探偵役の謎な登場人物が手引記される。

ストーリーはその土地に古くからある伝承が元になっている。
災難を避ける風習、言い伝えを守って人神を決めそれに仕え崇めている。
古来からのしきたりを守る選ばれた一族がその町の産業経済を率いている。

そこで連続殺人が起き、探偵を依頼された少女(御陵すがる)が青年(種田数馬)を助手にして犯人探しをする。

話はパズルの迷路を回るように複雑で、事件の動機も鮮明でない。
関わりがある人たちの中に犯人がいたとしても決め手がない。ただ次々に陰惨な事件がおこり、少女探偵は手がかりを探して歩く。
そして紆余曲折の果てに探偵の謎解きで推理通りに犯人は逮捕される。

今でもこういう伝承や古文書の話はそれを信じている人物がいてもいいし、ミステリ分野でそういう環境設定も面白い。

だが、伝統を受け継いでいる一族の、似た名前の羅列や姻戚関係に迷わされる、伏線らしい話があり、いかにも人でも殺しそうな状況があり、事件は絡み合って、読者の思考は各駅停車のようにしか進まない。

最初に一部の犯人(の動機)は想像できた。それらしく感じたのだけれど。そうは問屋がおろさなかった、このあたりは作品の流れは余り関係のなさそうな人物まで混じって話は混迷し、ついていくのに苦労する。

結局右往左往した人たちのその後はうやむやになっままで、次が18年後。
またしても過去の関係者がこの町に集まり同じような殺人が起きる。
前哨戦が長かった。

一部で起きた事件の決め手の真犯人はまだ捕まっていないらしい。

今度はかっての隻眼の美少女探偵の娘が探偵業をついで、母のやり残した仕事を仕上げるために真犯人を追うのだが。
探偵と犯人の知恵比べということなら、ふつう作者が並べた証拠が決め手になる。パズルを解くように少女が捜し、それを決め手に犯罪の謎を解き明かすのだが、イマイチその決め手といわれるものに、裏があるように思え、苦労して確実な証拠にやっと思い当たる。

ミステリは謎解きの段階で、最後には(できればスマートに)ひとつに収斂しなくてはならない。
その点、ピースがカチッと嵌った快感がない。

18年後という、二部はなぜあるのだろう。後片付け版か。

少女探偵「御陵みかげ」の娘という話になるので、また同じケースの事件が起きたとき、母親の解決が間違いであったと初めて読者は知る。
もう「なぁんだ」という心境。麻耶雄嵩さん少し見損なったぞ、「貴族探偵」から贔屓にしているのに。ただドラマでは相葉雅紀さんはミスキャストのようで、見てなくて言うのも申し訳ないが。
だが評価したプロは「なぁんだとはあんたこそナンダ」というだろうか。

パズルを解くのに疲れた、組み立てる方は並々の才能ではないだろう、稀に見る珍しいミステリで本格というものかもしれない。しかし、こういう最後はあってもいいのだろうか。
少々不愉快で、終章はそれを慰めるつもりだったのなら、この部分だけがやけに現実感があり、作為的で好きではない。

こまごましたプロットに複雑な筋道をつけるのが好きな人向け。
文章には少し詩的な叙情を求め、人生で切羽詰って起こしたというような事件の動機や社会的な犯罪が好きな読者には向かないでしょう。
作者の縺れた話を読み解いて遊ぶのが趣味という読者向き。こういう趣向の名作も多いので、作者のプロ意識が挑戦的に思えた。一応こんな感想が的外れでないと思いたいので、再読用に積んでおいた。

面倒だったと一言書くつもりが長く愚痴ってしまった(-_-;)

メルカトルかく語りき
貴族探偵


お気に入り度:★★★☆☆
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