「STRAYED」 (2003年 仏)
監督:アンドレ・テシネ
製作:ジャン・ピエール・ラムゼイ・レヴィ
原作:ジル・ペロー
出演:エマニュエル・ベアール(オディール)ガスパール・ウリエル(イヴァン) グレゴワール・ルブランス=ランゲ(息子 フィリップ) クレメンス・メイエ(娘 カティ)
ポスターを見てひるむ感じだったのだが、評判が気になって見ておいたほうがいいかなと借りてきた。噂の通りいい映画で10点満点なら7点かな。
第二次大戦の折、ドイツ軍に追われてパリから逃げ出した母と二人の子供がいる。
田舎の細い道を疲れた人たちが列を作って歩いている中を親子は車でのろのろと
走っているが、夏の暑い日にドイツ軍の爆撃からやっと逃げ延びた親子は一人の青年(イヴァン)に救われる。道を外れて草原に逃げて森に入っていくと一軒の家が見えた。たどり着いたその空家で不思議な青年とともに生活を始める。
青年は食料にする鶏や魚を持って帰り、一家の生活の面倒を見はじめるが、
母(オディール)には教養のかけらもない粗野なイヴァンと暮らすことが耐えられなかった。だが彼は戦死した夫の代わりのように現れて生活に入り込んでくる。
息子も娘も彼に親しみ、オディールもその生活力に頼らなくてはならなかった。恵まれない環境で育ち文字もろくに読めないまま成長したイヴァンにとっては、オディール親子との生活は初めて満たされたものに感じられる。
彼も戦争と言う死の世界からようやく人間の世界に戻りかけていた。そして異界に行った死者から持ち物を剥ぎ取ってくることには躊躇しない面もある。
家族は不法に入り込んだ家での生活に不安を抱えながら数日が過ぎる。
イヴァンはオディールへの愛を口にするようになるが、オディールにとってこの生活が長く続くわけもなくて、いつか抜け出せることを願っている。子を持つ母としての願いでもある。彼と衝動的に結ばれた夜が明け食料を捜しに行ったイヴァンが捕らえられる。そしてついに戦争が終わり、イヴァンも彼と暮らした家での日々も「かげろう」のように儚い思い出になってオディールの心の底にしまいこむ日が来る。
40才前後だろう未亡人と17歳の子供とも言えずまだ青年とも呼べないような年頃の青年との恋ということがメインのような話で、ありふれたシチュエーションのようだが見せる作品になっているのは監督の力なのだろう。
閉ざされた生活の中で青年は初めて家庭らしいものに触れ、献身的に世話をする
一家の母であるオディールの、夫でも息子でもない存在に戸惑いながらも惹かれて
いく心のゆれが伝わってくる。そして不思議な青年イヴァンのどこまでも
無垢な献身が描かれる。美しい風景の中で殆どの場面が淡々とした日常を
写しただけなのだが物悲しい思いを後々にまで残す。
原作者の自伝的な物語を映画化したそうだが、数日の閉鎖的な生活が
外から迷い込んだフランス将校の二人によって破られた時、
オディールのやっと穏やかになった精神の均衡が崩れて性衝動となってイヴァンに向けられる。
イヴァンにとっては未来のない行為が果たして幸福なものになっただろうか。彼の未来を思うとこの後のオディールは独善的で後味が悪い。