「FARGO」 (1996年 米)
監督:ジョエル・コーエン
製作:イーサン・コーエン
脚本:ジョエル・コーエン イーサン・コーエン
出演:フランシス・マクドーマンド ウイリアム・H・メイシー スティーブ・ブシェーミ ピーター・ストーメア ハーヴ・ブレスネル
冬の田舎町(ファーゴ)で起きた血生臭い殺人事件を下敷きにして作り上げたという、コーエン兄弟らしいおかしくも物悲しい不思議なお話。
何でそうなるの?というハプニングの連続で、単純に解決するはずの事件がエスカレートしていってしまう。
自動車ディーラーのジェリーは借金の期限が来て首が回らなくなっていた。
そこで妻を誘拐して、金持ちの義父に身代金を出させ、それで返済しようとしていた。
整備工の前科者に誘拐犯を紹介してもらって手数料を払うことにするが、ジェリーは以前から手を回して土地を買収しそこを駐車場にして一儲けしようとしていた、この話を義父に持ちかけ金を出させようという算段。
その話が実現することになり義父が乗るという。
あわてて誘拐の件は取りやめようとするが依頼人はもう出発した後で手遅れだった。
手配した実行犯は一人でいいのに二人連れで来た。
一人は覚えやすいほど変な顔をしているし、もう一人は無口で切れやすい危ない男。
どちらもあまり賢そうではない。
この二人は依頼どおり何も考えず黒マスクをして白昼堂々とジェリーの妻を誘拐して成功する。
逃げる途中の雪道でパトロール中の警官に止められ不審尋問を受ける。
そこで切れた相棒が警官を射殺、通りかかってそれを目撃し逃げた車を追いかけて乗っていた二人も射殺。
無能で頼りないジェリーは義父にはまったく信用がない、駐車場は義父が自分が経営すると言われ、身代金も自分で届けるというので当てが外れてしまう。
金を持って犯人と交渉に行った義父は押し問答の末簡単に殺され、金を持って逃げられてしまう。
地元の警察署長をしているマージが捜査を始める。マージは妊婦で大きなお腹をしているが大活躍。
二人の足あとを辿って、ついに車を割り出し、ジェリーの在庫管理の甘さを突いて、車を提供したことを認めさせようと追い詰める。
納得のいく言い訳も考え出せない小心者で大雑把なジェリーはマージの追及の前で口実を作り逃げ出してしまう。
切れた犯人はジェリーの妻も殺害。
仲間割れをして、おかしな顔の男は殺され、残る一人は仲間を木材の粉砕機にかけているところを射殺される。マージは事件を解決、暖かく小さな幸せの持つ優しい夫の元に帰る。
切れた男の一発の銃声から歯車が狂いだす。
ちょっとした誘拐事件ですむはずだったのに、連続殺人事件に発展した顛末が、見ていて歯痒くばかばかしいがそれでも事件の流れはどんどん進んでいく。
世間も法律もなく、たがが緩んだ犯罪不感症の男、そんな罪の意識がない人間が相棒になった悪運、力のないジェリーが最後の足掻きで選んだ安易な金作り。
方法としては単純極まりないがそれも最初からつまずく。
手に余るような人間に依頼しようとする甘さ加減も無能の表れで、ただあたふたするだけで何の手も打てない。
普通の叔母さんのマージが捜査官として優秀であったこと。
早朝に飛び出だしていく妻に朝食を作る優しい夫を持っていることがちょっとしたいいお話になっている。
どこででも起こりそうな田舎町の出来事がやがて陰惨な殺人事件を巻き起こす。
切羽詰れば行き当たりバッタり、考える余裕もなく突っ走ってしまう、時にはいたたまれない衝動に駆られることは誰にでもあるだろう、パニック状態の人々が右往左往することや犠犠牲者の不運はありそうな設定で、興味深くユニークな作品だった。
「身重だから」といって大儀そうにゆっくりと歩き回る警察署長のマージがいい味で、
彼女もこれでアカデミー主演女優賞。またカンヌとアカデミーで脚本賞も受賞している。