少し前に読んだ「母恋旅烏」も荻原さんだったと今頃知った。文庫本の中でひときわ変な題名で「タビドリってなに?」「タビガラスでしょう」と突っ込まれ、あぁ~…と読んでみただけですっかり忘れていた。
コレ、生活に行き詰った父親が擬似家族が要る人に、自分の家族を貸し出すというのが始まりだったような。(レビューがないとこうなる)
隣にあったので立ち読みをしてみて、コミカルな文章がすっかり気に入って買った中の一冊がこれ。
同時に「仲良し小鳩組」も積読山に乗った。
さて、この本にかける期待は、三浦しをんさんの素晴らしい青春小説「神去りなあなあ日常」が源で(ただ表紙の雰囲気で)田舎のほのぼの、わくわく話だろうと見当をつけた。
ところが、主役は東京の広告代理店で、資金繰りに切羽詰って、東北の奥の奥にある村おこしを引き受けたという話だった。村だって予算がたっぷりあるわけではない正直にいうと、割に、というか実に乏しい。脆い助け舟かもしれなかったが後先も考えず乗ってしまった。
社長とは名ばかりの総勢4人の会社で、一人はアルバイト。みんな一癖(というか変人ぶりもなんか笑える)あるが、コピーライターの杉山だけがややまとも(過去はあるが)
そこで現地を見に行くと。着くまでに一日かかり、過疎地らしく青年団も8人だけ。
「たった八人で祭りはどうすべ。」「おはよう野球が塩梅悪ぃだな、ライトさカカシでも立たせっか」
言葉には通訳が必要だ。幸いそこに東京で4年間大学に行ってUターンした慎一がいた。
そんな気のいい人たちにほだされてと言うか、現金に目がくらんで引き受けてしまったのだ。
村を興す? 何の当てもないところでリサーチ、偶然見つけた湖で閃いた、”恐竜見つかる!!”これでいこう。
カメラも入らない道を、村人だけが知っているアングルで怪獣らしい形を入れ、共謀の上望遠レンズで写した。それでマスコミが湧いた。
村は大騒ぎ、巫女さんも、鎮守さんも、首が折れてちょっと傾いた狛犬も、崖から転げ落ちそうだった家も、旅館も、人がどよめいて押しかけ、地場野菜の筆頭「おろろ豆」も売れ出した。アンテナショップを作って野菜を売ろうか、通販はどうか。小躍りどころか祭のみこしも踊りまくった。
世間は飽きやすい。
そうなっても素朴な村人は、めげない。
ささやかなハッピーエンドもあり、それが夢の後に来た夢でも、前向きにやる気は失せない素朴さに少し涙。
ピリっとスパイスも効いたうえに、荻原さんはかってコピーライターだったとかで、ユーモア満開で、楽しかった。
冒頭で、ちょっと会社紹介の
ゴム会社の医療品(?)のコピーがまた、、、プレゼンでは……、読んでいておなかの皮がよじれる。いい滑りだしだった。
だが「神去り~」に比べると、ここぞという盛り上がりが弱い。なんか聞いたような話で、人々が善良で心地よい分、内容にアクやクセがうすく、読みやすいがもの足りない。重い気分でない時はこのくらいの軽さも悪くないけれど。
それでもユニーバーサル広告社の中で特異なイラストレーターの村崎が気になって、続編でも彼に会えるなら読んでみようかなと思う。ミーハー魂だけが残った。
余談
「オロロ畑でつかまえて」を検索したら「ライ麦畑でつかまえて」も出た。
さすが「ライ麦」「オロロ豆」より強し。