不思議な力をもつ小説で、面白い。
逃げたつもりが、気がつくと男鹿半島のはずれの島にいた。
何がなんだか分らないままでその島になじんでいく。
住人は、未来が見通せてしゃべることが出来るカカシの「優午」。
家の庭で読書をしているが、悪いやつは有無を言わさず撃ち殺す「桜」という名の、美貌の静かな男。
半身を地面につけて心臓の音を聞いている少女「若葉」
足の不自由な「田中」
何時も同じ時間に散歩して、反対の言葉しか言わない画家「園山」
困った人を空家に運んで何かと面倒を見ている「日比野」
警官の「草薙」の妻「百合さん」は死んで行く人の手を握ってあげる仕事をしている。
喋るカカシも独創的だが、この手を握ってあげる仕事も現実にはありそうでない。
閉ざされた(閉ざした)島から唯一外にでかけている船乗りの「轟」。
肥満で座ったまま店番をしている「ウサギ」と彼女の世話をする夫。
そんな百年もの間島から出たことの無い人たちが住む島は、何か異次元のような奇妙さがあるが、伊坂さんが書くと、次第に現実と変わらなく思える。馴染んでしまって見えないだけで、現実もこういう奇妙なものかもしれない。
空き家のアパートの一室に住み着いた伊藤はその不思議な島で暮らすことになる。
そこで起きるミステリアスに思えるような生活の中の些細な出来事もあり、自殺をしようと高いやぐらに「田中」が登ってしまったり、外から来た男が殺されたりもするが、そんな出来事も島の人にとっては変わらない日常のようで、伊藤は時々疎外感を感じながらも親しみを覚えていく。
その中でも大変なことに、未来を話すことが出来るカカシが殺された。
でもカカシには予見できたのではないだろうか、カカシの「優午」は全て分っていたらしいとみんなは言う。
伊藤の書いた手紙が「轟」に運んでもらって、以前恋人だった「静香」に届く。
「轟」の船で「静香」と「城山」が来る。
そして最後に100年前から言い伝えられてきた「島に足りないたった一つのもの」もやってきた。