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儚い羊たちの祝宴



米澤穂信

「バベルの会」がキーワード。そこの会員になる誉れと恐れ。この良家の子女の読書会をめぐって微妙な心理がミステリアスに展開する

日常のダークな部分に少しずつ足を踏み入れていくように、特異な世界がひろがっていく。

名家の女子が入る学校に「バベルの会」という読書サークルがある。入会の目的はそれぞれに違うが、ステータスを表す一つのよりどころにはなっている。
この「バベルの会」が5編の短編をつなぐキーワードになっているが、それがポイントであったりなかったりしながら話を繋いでいく。

身内に不幸がありまして
<お手伝い夕日の日記>広大な屋敷に住むお嬢様が大学生になり「バベルの会」に入った。会は夏休みに蓼科高原の別荘で読書会が行われていた。お嬢様はとても楽しみにしていると言っていたが、毎年その日の前になると不幸な事件が起きるのだった。

北の館の罪人
屋敷の北に別館があり、そこに家督の相続を嫌った長男が住んでいた。火事がでたので、後は身寄りのない異父妹が世話をすることになった。中からは外出が出来ない造りになっていたが、妹は許されて鍵を開けて出ることが出来た、いつも長男の使い道が分からない画材などを頼まれて買ってきていた。長男は引きこもって青い絵ばかりを描き次第に心身をすり減らして死んだ。

山荘秘聞
山荘の管理人になった、家の隅々まで完璧に保って一年が過ぎた。全てに不足はなかったが、誰も尋ねてこなかった。
接待には自信があったし接待のマナーも身についていた。前職の時は、子供の友達が泊りがけで来たり、接待する客もあって楽しみだったが。
誰も来ない冬だった。
散歩に出て、滑落して倒れている男を助けた。すぐに山岳会の捜査メンバーがやって来た。やっと賑やかになった、これで完璧な世話をすることが出来る。

玉野五十鈴の誉れ
跡継ぎとされる純香は淋しく暮らしていたが、世話係に玉野五十鈴が来た。同じ年だったが、彼女は全てに出来がよく知識も深かった。頼りになる友人になり、学校にも連れて行っていいことになった。
入り婿の父の実家で犯罪が起き父は家を出されてしまった。再婚した母が男の子を産んでから、純果は厄介者になり、五十鈴は台所係にされてしまった。
だがすくすく育っていた弟が事故で死んだ。

儚い羊たちの晩餐
荒れたサンルームに入ってみると、テーブルの上に一冊の日記が置いてあり開いてみた。「バベルの会」を除名された鞠絵という名の女の子が書いたものだった。
父親は世間体を気にする俗物だったので、客をもてなすために料理人を雇った。「夏」という女性は若かったが腕がよく料理は絶品だった。だが大量の食材を仕入れ、選り抜きの部分だけを使うというやり方だった。けちな父は人一倍見栄っ張りでもあった。客に自慢するために眼をつむっていた。
「アルミスタン羊料理」の食材探しに蓼科に出かけていた「夏」が帰ってきた。その羊は唇を料理して食べるのだという。そして。
訪問者は読み終わった日記を伏せて椅子を立った。そのとき「バベルの会」の後継者が生まれたのだった。

日常の中にうまく組み込まれた恐怖がじわじわと迫ってきたり最後にに不気味な形になって終わったりする。解説によると、伏線は様々なミステリの一部を思い出させるような形でうまい。「アルミスタンの羊」というのもミステリファンならピンと来るのだそうだ。これがキーワードだった。 知らなくても楽しめるそうなのだが、ちょっと残念だった、私は調べるまでピンとこなかったが、それを知った後は面白く恐ろしかった。


お気に入り度:★★★★☆
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