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最後の証人



柚月裕子

裏表紙に「感動を呼ぶ圧倒的な人間ドラマとトリッキーなミステリー的興趣が、見事に融合した傑作法廷サスペンス」とあった。 友人のお勧めだったし、読んでみようと思っていたのでこれを参考にして借りて来た。

ほっこりミステリーという4人の作家が書いた短編集を読んだ。人の死なないミステリーと紹介もされていて、タイトル通り和みながら読んだ。中でも柚月裕子さんの「心を掬う」が面白かった。「救う」でなくて「掬う」がミソで、「掬う」のは佐方直人という元検察官で現在は刑事弁護士。それが郵便物紛失事件を解決するのに、意外なヒントから意外な場所を「掬う、掬う」。その正義感とやる気にほのぼのしながら恐れ入った。

そして、佐方弁護士シリーズがあるというので読んでみた。
佐方弁護士というキャラクターは、あまり新しくはない。様々な有名探偵の、ユニークで憎めないところを集めたような、仕事以外は関心がなくフロストほどではないにしても適度にだらしなく肩身の狭いひっそりとした愛煙家で、リンカーン弁護士(マイクル・コナリー)に負けない正義漢だが一方世間と付き合いはあまり得意ではない。一転法廷では硬派で頑張る、造形は親近感がわく。

ストーリーは
夫は命を救うという志を持って病院勤務から独立した医師。授かった息子の将来を楽しみに、仕事を全うして妻子を養っていきたいと思っていた。
小学校五年生になった息子が、塾帰りに交差点で車にはねられて死んだ。一緒にいた友達は信号無視で突っ込んできた車と息子の自転車が接触して跳ね飛ばされたと証言した。その上運転手から酒の匂いがしたという。
しかし、この証言は取り上げられず、息子の信号無視だとされた。運転手は葬儀にも顔を出さず、息子の過失だとうそぶいた。
息子の信号無視ということで、運転手が起訴されることもなかった。怒りをどこにぶつけたらいいのか、妻は生きる希望をなくした。

6年後妻の診察を友人に頼んだ、末期がんで余命は1年未満だという診断結果だった。
それを知った妻は島津への復讐を口にする。あまりの決意の固さに夫婦で実行する計画を立てる。妻がホテルに誘い刺殺するという計画だったが、妻は非力だった。そこで逆に殺されてしまう。監視カメラの映像を元に部屋の出入りがなかったことから検察側は島津を犯人として起訴した。
強気の検察官は折り紙付きの優秀な女性だった。

佐方は、子供を殺された夫婦の心情が痛いほどわかりながらも被告人の弁護をしなければならない。
矛盾したような立場で彼はどう弁護するか。正義感の落ち着くところは。

ストーリーとしてはあまり新味がないが緻密な組み立ては面白い。
夫婦の仕掛けた罠はどういう風に破綻したのか、不利な立場が法廷に緊迫感を高め、証拠探しも息詰まる展開で、島津により憎しみが湧く。
又、ひとり息子を理不尽に殺され、これでもかというほど不幸が重なる。医者が復讐を企てる反社会的なところもうまく人情的にクリアして話が進む。

そして、タイトルの証人は何を言うのか。結果は想像できたが、佐方の使う手口がそう来たかと面白かった。

佐方の事務所で働く女性の背景もいいし、相手の女性検察官もいい。
しかし、法廷場面の面白さ、緊迫感、検察官とのつばぜり合い、などマイクル・コナリーの「判決破棄」を読んでいれば、比べるのもおかしいけれど、海外ミステリながらリンカーン弁護士に大きく軍配を上げる。

親の悲嘆は他人ごとではないほどよくわかるが、日本的人情話を書き過ぎると重い。佐方弁護士はキャラクターがいいし事務方の小坂もいい相棒だ、短編は別にして、シリーズは三作で終わっているがそのうち読んでみようかと思う。


お気に入り度:★★★☆☆
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