文章は端正で気持ちよく切れがある。余分なものをマッシュしない、素材を形のままナイフでスパッと切って盛り付けたサラダのようで、読んだ後の感じにはおいしいドレッシングも振りかけてある。
当然罪を犯せば罰も償いもある。形はそれぞれでも。
話の締めには、なんだか大岡裁きのような情愛が感じられる部分もあって、評判のよさの一端もこういうところにあるのではないかと感じた。
題名が硬いしデザインも暗いので、大きな犯罪小説のように見えるが、犯罪の元は貧困だったり、無知、劣悪な環境、男女の縺れ、など身近なところで起きた事件がおおく、ドイツという国の法、裁判制度の現状がかいまみられるのも面白い。
フェーナー氏
フェーナー氏はイングリットと知り合い結婚を誓った。彼は模範的な開業医で、信頼も厚かった。だが次第にイングリットが大声でののしりはじめ、それは絶え間なく続いた。72歳になるまで結婚の誓いを思い出して耐えた。そして斧を振り上げた。私には弁護の余地がなかったが、懲役三年の判決を受け、開放処置がとられた。夜は刑務所で過ごし、職さえ持てば昼間は自由に行動できた。彼は趣味の園芸から手を広げ林檎を作り、果実販売を始めた。私のところにも赤い林檎が届いた。
タナタ氏の茶碗
サミールと二人の友達はタナタ邸に盗みにはいって、金庫の中から金と茶盌を盗んだ、タナタ氏は激怒した。サミールと二人の悪事は続いたが、茶碗は巡りめぐってタナタ氏のもとに帰った。
この間の様々な出来事が面白い。
チェロ
建築会社の二代目は娘テレーザのチェロを聞かせるパーティーを開いた、音楽は理解できないし、教育には関心がなかったので看護師が厳しくしつけた。テレーズは音楽大学に入ると家を離れた、大学には行かず弟と旅をして暮らした、二年後弟が事故で廃人になり、テレーズは看病を続けた。痛みが増してきた弟を風呂場で殺した。私は独房にいる彼女に面会に行ったが、いつも本を読み聞かせてくれるだけだったが。
ハリネズミ
犯罪一家に八人の似た顔をした兄弟がいた、皆そろって出来が悪く前科があった。そのうち一人が窃盗で逮捕された。裁判ではまたかという空気だったが、タリムが証言台に立って口を開いたので驚いた。彼は兄弟の中に隠れてはいたが、別部屋で勉強し知能の高さを誰にも見せなかった。彼は非常に面白い証言をした。
幸運
イリーナは戦争でベルリンに逃げてきた。そこで体を売っていたが、カレと言う青年と知り合って同棲した、そこに客だった男が来るようになり、部屋で死んだ。カレはイリーナを助けるために解体して埋めた。イリーナが逮捕されたがカレは助けたかった。
かれはイリーナに弁護士をつけた。カレは自白したが。私は過去の判例を持ち出した。
サマータイム
素行の悪いアッバスはついに麻薬の売人になった。だがボスに知られて指を切られ、恐れて足を洗った、シュテファニーと知り合ったが生活のアテが無く、彼女はこっそり客をとるようになった。その 中の一人で実業家がアッバスに殺された。事件を追う警察は手がかりがない、アッバスの証言は揺るがなかった。私は調べを進める。携帯電話、防犯カメラ、現代の道具が役に立つ、込み入った話が面白い。
正当防衛
ベッグと仲間は地下鉄で男をみつけて襲ってみたが一瞬のうちにやられてしまった。男は逮捕された。私は弁護を依頼された。男は黙秘を続けていた。この顛末と結びが面白い。
緑
店のまえに血のついたナイフを持った若者が立っていた、通報して逮捕されたが、彼は羊を殺して目玉を集めていた。女の子が行方不明になっていた、彼に誘拐されたのではないか、だが彼女は帰ってきて彼は釈放された。私は羊を殺した彼の話を聴く。
棘
警備員の仕事に就いたが、係りがローテーションのカードを入れ忘れてしまった。結果、彼の仕事は毎日同じ部屋に詰める事だった。気分転換にさまざまなことをして時間を潰したが、とうとう切れた。
愛情
パトリックは愛しすぎて彼女の背中を刺してしまった。軽い傷害罪だったが精神科の診察を拒んで姿を消した。私はカニバリズムを思い浮かべたが彼の弁護を降りた。
エチオピアの男
ミハルカは見掛けも悪く智恵もない孤児で、引き取られた家でも厳しく小言を言われながら育った。仕事もクビになったり盗難事件の犯人にされたりした。娼婦館で雑用係になったがそこでも懸命に働いた。娼婦のために借金をして返せなくなり逮捕された。生活資金を得るのに銀行に入った。手に入れた金でバスに乗り、アデスアベバまで行って住み着いた。彼は勤勉で珈琲作りにも向いていた、育て方や運搬方法や販売ルートを改善し、村人に感謝されて村も彼も裕福になり家庭を持った。当局に身元を知られドイツに送られた。家族も村人も泣いた。5年の禁錮刑になった。ミハルカは村の名前を知らなかったので連絡も取れなかった。だが、、、。心温まる話。