コックピットは自動操縦に変わり飛行計画通り飛んでいた。
しかし今日は出発が少し遅れた、その上気象予報によりコースをやや南に変えていた。
ファーストクラスのラウンジでは若いピアにストが演奏し、乗務員も仕事をこなしながらくつろいでいた。
中部太平洋上に原子力空母ニミッツが秘密の実験のために待機していた。国際条約には違反するが密かに自動誘導システムの特殊テストを行おうとしていた。テスト用の軍事用超高速無人標的機を飛ばし、フェニックスミサイルで撃ち落とす作戦だった。
そのためにミサイルを二個搭載したF18が飛び立ち、操縦士マトスはスクリーンに輝く点を確認した。ためらわず自己の昇進のかかった発射ボタンを押した。ミサイルの軌跡は輝点に向かっていった。
しかし同時にレ-ダー・スクリーンにはもう一つの弱い輝点を認めてもいた。
これはスクリーンシステムの誤作動かゴーストに違いない。
だがミサイルが到達した先の輝点はそのまま飛び続けている。弱々しい輝点の方は小さく弧を描いて落下して行った。おかしい。彼は機を大きな点の方角に向けた。
そこには胴体に二つの穴が開いた旅客機が徐々に高度を下げながら飛び続けていた、1万1千フィートで水平飛行にはいった。そんなはずはない。
彼は近づいてみたが人影はない。コックピットも無人だった。
空母に知らせた。「誤射しました。ストラトン797、トランス・ユナイテッド機です、人影は見えません」
穴の開いた旅客機の中は、固定されていなものは人とともに飛び出していった。瞬時の減圧の影響で人々の体内が破壊され脳組織も損なわれた。人が人でなくなり形をとどめていても制御不能のロボットのようにてんでに動き汚物にまみれあたりは出血で汚れた。
酸素補給も圧力によって用をなさずかろうじて燃料の循環装置が損なわれず働いていた。
たまたま3つの化粧室にいた人たちだけが小さなダメージで生き残った。
ジョン・ベリーも化粧室の与圧装置に守られて生き残った。呼吸可能高度で外に出ると、まだ生き残りが三人いた。
少女と男性が一人、フライト・アテンダントのシャロン。
機長は亡くなり2人のパイロットは意識がなかった。
ベリーはセスナを飛ばしたことがあった。しかし大型旅客機は勝手が違う。それでも落下を食い止めるために操縦席につく。そのうち計器も読めるようになるだろう。
空母ニミッツでは誤射を確認して対策に追われていた。ミサイルはもう一発積んでいる。
過去に、暗号装置を備えた駆逐艦が航行不能となっていたことがある、敵に曳航させないために、生存者ともども撃沈した。
飛行の障害になる機は除かなくてはならない。幸いミサイルはまだ残っている。その上海軍に要らぬ疑いをもたれてはならない。トマスに汚い仕事をさせるのだ。
ユナイテッド航空はストラトン通常運航データを待っていた。だが通信室には何も入ってきていない。プリント装置を備えた航空機とのダイレクト・リンクが一瞬瞬いて消えた。SOSと読めたような。馬鹿な今どき時代遅れのシグナル「SOS」とは何かのいたずらだろう。
52便でベリーは応答を待っていた。ランプが瞬いたように思った。
誰だ!
ベリーのメッセージを送る手が震えた。
受け手の航空管制官は一目見て叫んだ。ジーサス・クライスト !!
メーデー・・・機体損傷・・・無線故障 ダイレクト・リンクが文字を吐き出し始めた。
ベネフィシャル保険会社でも担当者が事態に備えた。提案が採択され乗客賠償保険を引き受けていた。だが今は不時着の恐れがある。密集した街に落ちたら。彼は将来の暗雲を見た。一生涯の保証は家族にも及ぶ向こう75年はかかるだろう。
1億ドルを超す機体保険がなかったのが幸いだった。
ベリーはハワイ島に着陸せよという連絡に不審を持った。燃料ギリギリであの小さい島になぜ着陸せよという。
彼は回転して引き返し、ベテランに誘導してほしいと送信した。
空母上では、最後のミサイルを発射しなかったトマスとともに、誤射機を消した。
様々な組織につながる人々は、組織の保全と自己の将来のため策を練る。ちょっとした過失が招いたかもしれない。しかしこの事故の全てを消しにかかった。
中には道徳観に縛られながら苦しみ、それでも逃れる方法を探す人もいたにはいたが。
そしてヒーローの出番になる。
ベリーは、命を見捨てない。
管制官からの無事を祈るというメッセージが何度も繰り返されるのを見る。
緊張感が盛り上がる中に、地上の人々の醜い心理や、潔い決断や、読みどころが最後まで詰め込まれ500ページ近いストーリーは飽きるところがない。最後まで逃げない男になるのは命がけ。ベリーだけではないのがまた盛り上がる。小説というのはこうでないと。掴み所も外してない。作家と元パイロットの共作は極上の冒険小説になっている。