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金色機械



恒川光太郎

読むのに時間がかかった、物語の流れが緩やかだとつい雑念が入り込んでしまう、それはそれでいいのだが。柔らかい美しい文体で野生的な盗賊たちの生活が描かれているが「金色様」は何か異界の夢物語めいていた。

恒川さんの、現実から幻想的な世界に滑り込んでいく物語が好きで読んでいるが、長編は初めてで少し勝手が違った。
時系列どおりに進むのではなくて登場人物が現れるごとに、それが生きてきた過去から話が進む。時間の往来があってから、現在に合流する。

全編を通して恒川ワールドの雰囲気が続いていく。
はみ出し物の盗賊たちは殺しもやれば子どもの誘拐もする、情け容赦のない場面もあるが、それも全て絵物語のようで、続けて読めば分厚い400ページを越す話も進行は早い。

山奥に通称「極楽園」といい、鬼屋敷とも呼ばれる盗賊の部落がある。子供をさらってきて働かせているが、頭目が殺されて手下だった夜隼が実権を握る。ここにも下克上はある
そこに熊悟郎が逃げ込んできて下働きを始めるが、夜隼に見込まれ、武芸の訓練を受ける。
見る見る上達して仲間に認められるが、彼は長じて、妓楼を任され莫大な利益を得てのし上がっていくことになる。
熊悟郎は人の心が見える目を持っていた。

捕縄の名手、同心の柴本巌信のところに遥香と言う娘がやってくる。彼女は手を当てると人を安楽に死なせる技を持っていた。医者の家で、見込みのない患者にその技を使わせていたが、医者の家からも自分の力からも逃げてきたと言う。

彼女は過去に鬼屋敷にさらわれてきて逃げだした紅葉という娘の子供だった。
遥香は逃げ出てさまよい、庵に中にいた「金色様」に出会う。彼女は父母が殺されたいきさつを話し、厳信が手伝うことになる。

「金色様」と呼ばれるのは遠い昔、月から来た一族だったが、体が金に覆われ光のエネルギーで生きていたため、一族が耐えても生き残っていた。極楽園の中の庵で暮らしていたが、やがて遥香とめぐりあう。この一族の話はなんというか、突然下りて来て紛れ込んだような宇宙譚でこの金色様の話だけで読んでみたい気がする。

同心と一緒になった遥香の復讐、極楽園の人々の末路、話は前後しながら進み、やがて幕引きの時が来る。

金色様と呼ばれるロボット様の物体は、C-3POの姿を彷彿とさせるが、こちらは男にも女にも変幻自在、声まで変えられる。花魁の衣装を着て白塗りの顔を長い髪に隠し、文字通りこの世のものでない強さを見せる。月から来たと言うそのときから物語の中に存在して、人々に関わり続けているが、あまり違和感はない。
何か現代のおとぎ話で、恒川さんの現実離れのしたストーリーは、現実との距離感が荒唐無稽になりそうだが、その世界が好きなら巧妙な言葉で異次元に誘われる。
時々はっと我に返ると、長編だけに少し齟齬のある部分がみえるので、どちらかといえば、短編の方が持ち味に沿っているように思えた。
それでもこんなありそうもない世界をもっと楽しんでみたい気がする。やはりストーリーも夢幻の世界をさまようような恒川ワールドだった。
リアルな世界で構築された物語が好きな人向きではないが、地面を離れて浮遊してみるのも悪くない。
読者を選ぶ作品。


お気に入り度:★★★☆☆
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