梨木香歩
この少し口調の違うエッセイがよかった。
*境界を行き来する
ドーバー海峡の崖からフランスの方に身を乗り出して見た時気づいた、「自分を開く」ことからつぎつぎに連想される事がらについて考える。
*隠れていたい場所
生垣の中と外、内と外からの眺めや中に住んで見たい思いがイスラムの女性の服装について考える。イスラームの問題や、われわれの受け取り方や、わかろうとする無理について考える。
*風の巡る場所
観光客が向けるカメラの先にいる現地の人たちに対する思いや、旅人の自分が大地を見つめて、考えたことなど。
*大地へ
少年犯罪について、教育者の態度、子を亡くした親の悲痛な心について。逆縁の不孝、冠婚葬祭の風習などについても。
*目的に向かう
これは実に「ぐるりのこと」なので面白い。車で信楽に出掛けたところ、回り道をしてしまって伊賀上野についたり、昔ながらの田舎の庭が、イングリッシュガーデンの始まりに似ていると思ったり、私も野草や花が好きなので、近代的な花もいいが、昔ながらの黄色いダリアや千日紅、ホウセンカなどが咲いている庭を見ると懐かしい。読んで嬉しくなった。
*群れの境界から
映画「ラストサムライ」を見て思ったこと。葉隠れの思想、西郷隆盛の実像などの考察。
群れで生きることの精神的な(だからこそ人が命をかけるほどに重要な)意義は、それが与えてくれる安定感、所属感にあり、そしてそれは、儒教精神のよってさらに強固なものになる(その「強固」もうすでに崩壊に向かっている訳だけれど)この儒教精神も絶妙な遣りかたで(結果的に見れば。その時々で都合のいいように使われてきたことの堆積がそう見えるだけかも知れないけれど)為政者側に役立ってきた。こういう物語や、現実につながる過去の歴史が思い当たる。
*物語を
風切羽が事故でだめになったカラスに出会う、あんたは死ぬ、と言って聞かせた後、帰り道でそのカラスが民家の庭にいるのを見る。迷子のカラスがペットになった話があったなと思う。カラスと目が合って「そうだとりあえず、それでいこう、それしかない」と思って呼びかけてみる、そうだ、可能性がある限り生物は生きる努力をする。生き抜く算段をしなければと思う。
*アイヌのおばあさんの処世術について。
*ムラサキツユクサの白花を見つけたが、そこが住宅地になってしまって胸が痛んだこと。
*本当にしたい仕事について、
物語を語りたい。
そこに人が存在する、その大地の由来を。